目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第79回 美味しさの働き力4 粒子の大きさ

味噌汁の美味しさの善し悪しの60%は粒子の大きさが関係するといわれています。大きすぎると口あたりがザラザラし、小さすぎると「ネトネト」になります。味噌汁を漉すと澄まし汁になります。自分でやったことがないのですが醤油に近い味だそうです。

大根おろしの美味しさの秘訣は3つあります。

  1. 汁が多めで固形成分が分離しない状態。
  2. 粒子が揃い、角が丸くなっている。
  3. 細胞がつぶれていない。

食感は粒子の大きさと形状で決まります。例えば黄な粉は砂糖が無い時代、草団子の甘味づけなどに使われていました。黄な粉は大豆を微粒子化したものです。色も香りも甘味も、およそ大豆からは想像がつきません。穀物は粒子の大きさにより味も香りも色も大きく変わります。最近ブームの米粉も微粒子化の技術によって美味しくなりました。因みに米粉は新米より古米が良いということを聞きました。(確認できてませんが)

ソースのテクスチャーも素材の微粒子化で大きく変化します。フランスでブームの野菜スープはムーランやパコジェットを使ったミクロ粒子の濃厚な料理です。パコジェットは10ミクロンまで素材を微粒子化できます。フランスの野菜スープについては「美味しさを感じる味覚要素」のコーナーで既にお話しました。

7月のパリの店頭調査で非常に滑らかで美味しいソイ(大豆)ヨーグルトを見つけました。アメリカにもソイ・ヨーグルトはありますが、粒子が粗くあまり美味しくありません。両者の違いは微粒子化の技術の違いだと思います。筆者には面白いソイ・ヨーグルトのアイディアがあります。ただし企業秘密なので申し上げることはできません。


閑話休題 調理の時代から調味の時代へ

食MAP分析によると調味料大戦争が起きています。要約したものが下の図1です。

top_column_79_1.GIF調味料大戦争は図1で示すように3つの次元でおきています。その一つ「メニュー・ジャンルを超えて使われている調味料大戦争」について、図2がその有様を示しています。図2は食MAPデータのメニューと調味料の使用実態の相関関係から、2次元クラスター分析(メニューと調味料がお互い緊密なクラスターをつくる統計学分析)という手法を使った結果です。食卓で和洋中の料理の垣根を越えた熾烈な調味料同士の戦いが起きていることがおわかりになるでしょう。

top_column_79_2.GIF調味料大戦争の背景に、家庭の食卓の簡便化が進む中、ワンパターンな調理に飽き、新しい美味しさを調味料の多様化に求める消費者嗜好があります。ベトナム料理、タイ料理や地中海料理、あるいはメキシコ料理などエスニック料理の普及が料理のフュージョン化(融合化)をもたらしていることも関係しています。

調味料大戦争は、素材が美味しくなくなったことも影響しています。最近の生鮮食材はどれをとっても美味しさが半減しています。調味で不味さをカバーする時代です。

最近訪れたパリやシアトルでも、スパイス・ハーブをベースにしたシーズニングやソースミックス、スープミックスがブームです。

「調理の時代から調味の時代へシフト」が世界共通のトレンドです。

細胞を壊さないことも美味しさの秘訣です。おろし金で野菜をおろすのは、擂り潰すのではなく「ほぐす」ためです。かきほぐすように擂るとなめらかになります。わさびをサメ皮のおろし板でゆっくり円を描くようにする(ほぐす)と滑らかで香りの良いおろしわさびができます。

美味しいマッシュドポテトを表現するとき「ぽくぽく美味しい」といいます。これは細胞がうまくバラバラになって壊れていない状態を指します。細胞が壊れるポテトはベトベトになります。

裏ごしを使って擂ると、ほぐすというより細胞を擂りつぶします。結果、細胞が壊れ、固形分と水分が分離し、食べた時にスカスカになったり、腰が弱くなりベタベタになることがあります。食べた感じが頼りない結果となります。裏ごしはとろみを出すのには効果的ですが、案外に美味しさを損なう場合があるので要注意です。

細胞の粒がそろっていることも美味しさのポイントです。粒の不揃いのスープはざらつき感がでます。粒の角が丸いことも大切です。

細胞膜をやわらかくすることも美味しさに影響を与えます。ジャガイモに塩を加えてゆでると植物の細胞を覆っている細胞膜(ペクチンがカルシウムと結合したペクチン酸カルシウム)がとれやわらかくなります。ただし細胞膜が破壊されてはいけません。

私の考えでは、これからの美味しさづくりは、素材の微粒子化を通じて行われることが多くなるでしょう。ドライタイプ(乾燥の粉)は500ミクロン程度、ウエットタイプは数十ミクロン程度が微粒子化の限界です。フランスのパコジェットという調理器具を使うと10ミクロンまで微粒子化できるようです。裏ごしを3回以上やった時の細かさです。しかもカットなので細胞が壊れにくいのです。また筆者がいろいろアドバイスしている食品会社では、10ミクロンの200分の1の50ナノまで微粒子化できます。この技術を使うと未知の美味しさが誕生します。塩味、甘味、酸味、苦味、旨味に次ぐ、第6の美味しさが微粒子化技術によって実現できるのです。

次回から「海外から学ぶ」をお話します。最近の食品メーカーは「海外に進出する」がブームです。しかしその多くが目先の利益のため海外進出です。同時に政治的なリスクも抱えることが証明されました。今、一番重要な事柄は長期的視点にたって「海外から学ぶ」ことです。

お楽しみに!

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