目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第77回 美味しさの働き力2 砂糖の力~余分な水分を抱える(保水効果)

砂糖は食品中の水分を自身に取り込みます。そのため時間がたっても、食品中の水分が保持され固くなりにくいのです。また食品中の水分が少なくなるため、菌の繁殖を抑えることができます。羊羹が腐らず、いつまでもしっとりしている理由がここにあります。飴もそうです。

因みに砂糖は水の2倍の量が溶けます。これを水分溶解度といいます。温度を上げると溶解度が高くなります。溶解した砂糖水を冷ますと、結晶化し粗目(ざらめ)になります。

米のでんぷんがアルファ化(ドロッとした状態になり消化がよくなること)する条件として水分が必要です。砂糖は米の水分をでんぷんから取り除き、しかも砂糖が水分を抱え込むためにしっとり効果を出します。水分の少ない米は当然に菌の繁殖を抑えます。同時に砂糖がでんぷん中の水分を吸収するため、でんぷんの老化(ベーター化)を抑えることができます。これが関西で生まれた押し寿司の、保存と美味しさを両立させる方程式の秘訣です。

砂糖の働きは他にもあります。玉子焼きに砂糖を入れると、とろりとした玉子焼きができます。砂糖が卵の固まる温度を上げるためです。砂糖が入ると卵が固まる温度(凝固温度)が15度ほど上がります。卵のたんぱく質は温度が急速に上がると硬くなりますが、凝固温度が上がるため、たんぱく質の凝固を遅らせ、とろりとした玉子焼きができます。

砂糖を加えるとたんぱく質の固まり方に余裕ができるわけです。卵に対し10~20%がもっとも滑らかになると言われています。試してみてください。

(フライドポテトを上手に揚げる方法)
ジャガイモを水洗いして揚げるとカラっと揚がります。水洗いでジャガイモの糖分が取り除かれるためです。水洗いし、芋を布巾でよく拭いて揚げてください。ジャガイモを乾燥させて揚げると、カラッと揚がりそうですが、実際は逆です。表面に糖分がでてカラッと揚がりません。

(乾物を使ったしっとり料理)
乾物を戻すとき若干の砂糖を入れると、乾物に水分が浸透すると同時に砂糖も浸透します。砂糖による風味向上効果が出ます。同時に砂糖の保水効果でしっとり料理ができます。

(砂糖がジャム作りに欠かせない理由)
果物や野菜のジャムづくりに砂糖が欠かせないのは、何も甘さだけが理由ではありません。果物や野菜の植物の細胞壁の構成成分にペクチンという多糖類があります。ペクチンは果物や野菜にあるセルロースと結合して、植物細胞をつなぎ合わせる「セメント」の働きをします。

未熟な果実ではペクチンが非常に長くなって、そのままでは水に溶けず、集まってゲル状態を作ることができません。一方必要以上に熟した果実も、ペクチンがバラバラに分解されゲル化する能力を失ってしまいます。よいジャムを作るには果実の熟し具合が重要な理由がここにあります。

ゲル化させるためには水、砂糖、酸が必要です。柑橘系のジャムが多いのも柑橘の酸が重要な働きをするからです。ゲル状態とはゼリー状態のことを指し、ペクチンと水が網の目で結びついて、寒天状になっている状態を言います。

砂糖が水を抱え込み、ペクチンと水を適度に分離させ、ペクチンがうまく分散し、ゲル状態を作ってくれます。しかも砂糖の保水作用に対し、酸が脱水作用を働かせます。砂糖がこれ以上水分を抱え込ませないための状態を作る効果が発揮されます。

ペクチンと砂糖と酸のバランスがジャム作りのコツなのです。

余談ですがトマトのペクチンは油の吸収力が強いという説があります。トマトを使った油料理は、トマトが余分な油を吸収し、口当たりをよくするという説です。ただしこの説は、実際の効果としてどこまであるのか不明な点が多いという専門家もいます。
         
次回は乳化です。乳化は「水と油の良い関係をつくる」美味しさのきわめて重要な働きです。

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