目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第71回 日本の食再生の鍵がアメリカにある

日本へ帰って、火の鳥プロジェクトを立ち上げよう」と考えた大きな理由の一つが、
「日本の食再生の鍵がアメリカにある」
の直感である。

アメリカは今から40年前の1970年頃2億人だった。それが2006年に3億人を越えた。40年間で5割アップである。アメリカの人口増大はそのほとんどが移民によってもたらされている。

日本の人口は少子高齢社会の中で約100年後には5割ダウンになると言われている。日本も5割アップさせなければならない。2つの国の状況は白黒反転でまったく違うが、奥底に一脈通じる何かがある。問題はそれを実現するバイタリティを日本がどう生み出すかだ。

「現在のひ弱な国には、そんなものは見当たらない」

「とことんまで落ちるしかないのではないか」

「食の再生からチャンスがつかめるかもしれない」

「その兆しは、リーマンショック後の日本に既に現れているようだ」

「東日本大震災後起こるべき新たな流れの予兆は、すでに始まっているのではないか?」

様々な思いが駆け巡る。

アメリカの移民はどこからやってきたのか?中南米・カリブ海、中国大陸、インド、中近東からの移民が多い。ざっくり言えば4大文明地域からの民族大移動だ。

4大文明地域に共通している事柄がある。多収穫性の高い穀物(ジャガイモも含めて)を食料資源にしている点だ。文明発生の根源は穀類や豆類、種子、木の実がベースになっている。

今の日本は米離れを心配する一方、野菜ブームである。とくにサラダブームは熱病に近い。この野菜が問題だ。野菜の歴史は穀類に比べるとずっと後である。トマトはヨーロッパに入った当時、観賞用だったという話もある。野菜は栽培、収穫、輸送、保存に手間がかかり、エネルギー効率が良くない。「野菜は栄養バランスをとる食料として贅沢な食料だ」という識者もいる。

穀類の難点はそのまま食べられないことだ。ただ、そのためにさまざまな調理・加工技術が発達した。野菜の調理・加工技術は穀類に比べると広がりが狭くと深みが浅い。

アメリカは、最近ますますエスニック・ブームである。日本もエスニック・ブームである。一見して同じようなブームだが、起きている背景が全く違う。

日本のエスニック・ブームは東南アジアなどへの海外旅行が発端の単なる流行だ。
アメリカのエスニック・ブームは大量の移民と一緒にやってきた草の根潮流だ。

アメリカはつくづく巨大で逞しい国だと思う。大量の異民族を受け入れるだけの包容力と寛容力を持っている。同時にそれら受け入れたものをアメリカナイズする活力を持っている。移民がアメリカに夢を抱くからだろう。アメリカの夢と移民の夢が融合(フュージョン)するダイナミズムがある。

アメリカは世界で一番の多民族国家の実験場である。日本のようにファッションとしてのみ食文化が輸入されるのとは異なり、民族の受け入れとその民族の食文化の受け入れが同時に進み、さらにそれをアメリカナイゼーションする。この懐の深さ、寛容力の大きさが活力ある食市場を作り上げている。

フュージョン化=エスニック化である。

イタリアン、メキシカン、韓国、インディアンなどの料理人気が高い。米国への移民の増加数に比例している模様である。食品・調味料、デリカ売場、レストラン料理がエスニック一色の感がある。最近はカリブ海料理も出始めている。チャイニーズやジャパニーズは成熟化の状況にある。しかしジャパニーズ・フードは健康的であるというイメージは高い。外食も内食もエスニックがトレンドである。

エスニックフードは肉を多く使わないものが多い。穀類、野菜などを比較的多く使う。健康志向製品である。フュージョン化=エスニック化は日本の食再生の重要なキーワードになるだろう。
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top_column_71_7.gif写真は今シアトルで人気NO1と言われているレストランである。店名はChipotle(唐辛子の意味)。メキシカン料理の店である。写真の中に18年目を祝うメッセージがある。環境や資源、産地との調和の成果を高らかに歌い上げている。
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top_column_71_10.gifエスニック化は、全粒穀物製品市場拡大を進めている。全粒穀物製品市場が21世紀に入り急速成長している。とりわけ朝食シリアルやスナックの成長は目覚しい。食品スーパーを廻るとショートパスタ、タコス・ブリト-(ホールグレイン、フラワー、コーン、ホールウイール、オリーブでラップしたものなど様々)、餃子、スパゲッティ(チルド、フローズン、常温など多数)が売場を席巻している。

シアトルのスーパーPCCでは、穀類、豆、シード、ナッツ、ドライフルーツの量り売りコーナーが、棚に50種類×4段+15種類×4段=260種類も並んでいる。

穀類、豆、シード、ナッツ、フルーツなど、古来民族の文化・文明の繁栄を支えてきた食糧がアメリカの食市場を席巻している。
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日本でも、全粒穀物製品をベースに健康でイージーな食生活スタイルを実現する企業が消費者に受け入れられる時代がくるかもしれない。

「そうさせなければならない」

「【野菜はもっとも高価でエネルギー効率の悪い食材】という消費者認識の変化が起こるかもしれない」

「そうさせなければならない」

アメリカでは日本人が好きな野菜、特に軟弱野菜が少ない、例えばレタスはあまり売場で見かけない。同じホウレンソウでも。日本のような柔らかいものではなく、ソテー用で固い。まさに強靭野菜である。野菜以上に栄養価の高い全粒穀物やナッツ、フルーツを活かした商品化努力が必要である。

こんな思いを心のバネにして、火の鳥プロジェクトを立ち上げるべく日本に帰ってきた。

(TO BE CONTINUED)

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