目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第69回 顧客価値接点を再構築する ~パート5~

今回がシリーズの最後です。

6.シングルスの弁当と接点をもてない食品メーカー

図は手づくり弁当に入るメニューと調理済み冷凍食品利用の関係をポートフォリオ図にした結果です(2009年)。この図を10年前の1999年と比べると興味ある事柄が浮かび上がります。弁当の中身が変わってきています。

10年前と比較して鶏肉の唐揚げの弁当出現率(TI値)は変わりません。弁当1000回当り鶏肉の唐揚が90回出現しています。鶏肉の唐揚げの調理済み冷凍食品利用率が、10年前の40%から今回は65%にアップしています。潜在マーケットは変わらないが顕在マーケットは大きくなっています。冷凍の鶏肉の唐揚げは「弁当の1番星」になっています。

シュウマイの調理済み冷凍食品の利用率は10年前と変わらない65%です。しかしシュウマイ自体の弁当出現率が7%から5%に落ちています。シュウマイの調理済み冷凍食品は潜在マーケットが縮小し「弁当の星」からはずれ気味です。

弁当出現率が大きく落ちているメニューが塩鮭の焼き物です。10年前は鶏肉の唐揚げと同じ9%でしたが、今回は5%強です。替わって野菜のおひたしの弁当出現率が大幅に上昇しています。野菜のおひたしは鶏肉の唐揚げに次ぐ弁当メニューに成長しています。ただ問題があります。野菜のおひたしの調理済み冷凍食品の利用率がゼロです。野菜のおひたしの冷凍食品は未開拓市場です。

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続いての図はシングルスの弁当のポートフォリオ図です。これを家族の弁当と比べると、大きく違うのはシングルスの弁当で野菜炒めがトップになっている点です。シングルス弁当に7%の確率で野菜炒めが入っています。もう1つ大きな違いがあります。家族の弁当には鶏肉の唐揚げ、ハンバーグ、シュウマイといった「弁当の星」が存在しますが、シングルスには「弁当の星」が存在しません。

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調理済み冷凍食品のメーカーはシングルスをターゲットにした弁当市場を見落としています。その結果がスター不在のシングルス弁当市場です。大人の女性の弁当に鶏肉やハンバーグは似合いません。野菜のおひたしや具入りオムレツなどが似合います。

次の図はシングルスの弁当持参率です。平日のシングルス女性の持参率は25%以上です。シングルス弁当という巨大な市場が隠れています。冷凍食品メーカーはシングルスの認知価値に合わせた商品価値の再構築が重要課題です。

top_column_69_3.GIF7.ミールソリューションの再構築に惣菜の未来がある

今から20年前の1990年代の初め、日本の食業界は一つの話題でもちきりでした。ミールソリューションです。ミールソリューションに続いてHMR(ホームミールリプレイスメント)という言葉がアメリカから届きました。これが中食ブームの火をつけたのです。いわゆる惣菜ブームです。ただ惣菜ブームは、今、大きな曲がり角に来ています。食MAPを見る限り惣菜ブームは終わりました。同時に惣菜の顧客価値接点の再構築が求められています。

本来、ミールソリューションは惣菜だけを意味しているわけではありません。「合理的で快適な食事づくりの方法」が本来の意味です。惣菜はそのための一つの手段に過ぎないのです。同時に惣菜の使い方にこそミールソリューションの本質があるのです。そうした本質が忘れさられ、表面的な惣菜ブーム一色になってしまいました。一色になった理由は、当時の食品業界の2つの目先の判断です。

  • 外食費の上昇をカバーするのが中食である
  • 簡便化志向が高まり、手づくりが無くなる

この目先の判断の再考が必要です。その上で惣菜の価値の再構築が課題です。その証拠を一つお見せしましょう。

図は夕食のメニュー出現度と、メニューの惣菜利用率の関係を、家族市場とシングルス市場で比べた結果です。

シングルス世帯と家族世帯、共に寿司やコロッケ、カツ、フライ、鶏肉の和風焼き物(焼き鳥)の惣菜利用率が高くなっています。家族世帯に比べシングルス世帯の利用率が高い惣菜が多いです。これは予想された結果です。
しかし、ほかに予想外の結果があります。

シングルスの野菜サラダの惣菜利用率36.6%という結果をどう思われますか?

家族世帯の野菜サラダの惣菜利用率は5.1%でしかありません。もう1つの結果を合わせると驚きが増します。野菜の和風煮物の惣菜利用率はシングルスで何割でしょう?

答え 24.1%
予想外に低い。しかも野菜サラダの惣菜利用率より大幅に低い。
「何故でしょう?」

top_column_69_4.GIFtop_column_69_5.GIF野菜の煮物は、プロの本格調理は別として案外に手軽にできます。南瓜の煮物をシングルスは麺つゆで手軽に作っています。ストックもできます。「ストックできる」は、身の丈にあった食卓づくりの重要なポイントです。シングルスの魚の和風の焼き物の惣菜利用率は僅か14.8%です。

シングルスにとって野菜サラダはメインディッシュに近くなっています。野菜サラダは、主婦にとってはサイドディッシュですが、シングルスにとっては食材の種類が多い「ごちそうサラダ」です。1人前調理用にたくさんの種類の材料は買えません。少量の素材を何種類も用意するのは物理的に不可能です。ならば野菜サラダの惣菜を買ってきて、自分流にアレンジすることがシングルスの知恵です。

「惣菜を買おう」は簡便化ではなく、合理的な食卓づくりの知恵なのです。
「自分流にアレンジできる」
が惣菜のミールソリューションの本質だと考えています。惣菜の提供価値と認知価値が食い違っています。惣菜をグルメ志向で展開する企業は、食卓潮流の読みを見誤っています。

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