目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第67回 顧客価値接点を再構築する ~パート4~

今回はカレー粉と麺つゆ、おでんです。3つの例で顧客価値接点の再構築をすると、新しい市場が生まれることをお話しします。

3. カレー粉をカレー料理の主役から、全ての料理の名脇役に変身させる

昨年、ある大手カレーメーカーが、カレー粉(缶)の販促に力をいれ大きな成果を上げました。カレー粉が意外な使われ方をしていることが食MAPから分かったからです。カレー粉の食卓出現度が、ここ数年高まっていることに注目したメーカーはカレー粉の使われ方を調べました。カジキマグロなど切り身の魚をフライパンで料理する際にカレー粉が使われていました。食品メーカーは「カレー粉はカレー料理の味の調整のための調味料」と考えていました。メーカーの提供価値です。食卓では「魚を炒める料理の調味料」として使っていました。消費者の認知価値です。

最近は、冷凍食品やハウス栽培、水耕栽培などにより、味の無い食材が増えています。醤油や和風だしなど和風調味料の使用が減ってきています。醤油や和風だしは新鮮な素材を使って真価を発揮します。鮮度が落ちた素材では美味しさがでません。これに比べてスパイスや洋風だしは味のインパクトが強い調味料です。そんなことで魚料理にカレー粉が使われているのでしょう。

カレー粉の価値についてもう一つ気付くことがあります。カレー粉の主役であるカレー料理から離れ、他の料理の味付けの名脇役になることで新たな価値を生んでいる事実です。カレー粉をカレー料理(主役)からはずし、魚料理など色々な料理の味付けの一つ(名脇役)として商品価値をデザインし直すと、新しい市場が生まれます。

詳しくは述べる余裕はありませんが、野菜料理にこの法則が適応できます。野菜料理の人気は高くありません。しかし野菜料理の出た食卓の人気は高いです。この力学を上手に利用すると人気のない野菜料理でも食卓出現度が上がります。メニュー提案から食卓提案に重点が移っている今日、この法則は注目です。

4. M値の法則をたくみに利用して大ヒットしたヤマサ醤油

10年以上も前のことですが、ヤマサ醤油が「昆布つゆ」を新発売し大ヒットしました。
当時、麺つゆのトップメーカーはキッコーマン、ミツカン、にんべんの3社でした。ヤマサ醤油はめんつゆの後発組として市場に参入しました。ただ「麺つゆ」と市場に訴えただけでは先発組に勝てません。そこであえて麺つゆといわず「昆布つゆ」といったのです(因みにこれは私の推測であることをお断りしておきます)。

「麺つゆ」と「昆布つゆ」では、消費者が受けとる価値が違います。当時の食MAPによると麺つゆが麺料理に使われる割合は5割を下回っていました。ヤマサ醤油は故芦屋雁之助をCMのキャラクターに用い「こんこん、昆布つゆ、昆布をぎょうさん使こうてるの」という名台詞で、初夏の金糸卵ソーメン、秋の炊き込みごはん、冬のおでん等、さまざまな料理に麺つゆを使うCMを1年を通して放映し、一挙に売上げを伸ばしました。

図は当時の新聞紙上の宣伝です。メニューとの接点を高めながら売上を伸ばしている様がよく表現されています。

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この時「M値の法則」の存在を思いつきました。「M値の法則」を証明するために、当時ウインナーソーセージ市場を例に作ったのが下図です。

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横軸は1年間にそれぞれのウインナーソーセージが使われたメニューの種類です。縦軸は食卓出現度〈TI値〉です。メニューの種類と食卓出現頻度に正相関関係が認められます。たくさんの種類に使われるウインナーソーセージほど食卓出現頻度が高くなるという法則です。この法則は、私が確認した限り全ての食材に適応できます。食品や調味料はどんなメニューに使われるかで価値が異なります。

365日の食卓に登場する料理との接点の持ち方は、大事な顧客価値接点です。

追伸
ある流通コンサルタントが言いました。牛肉の売場で従来のパックを変更しました。
 従来のパック 「すき焼き用の牛肉」
 変更したパック「すき焼きと焼肉用の牛肉」
どちらがよく売れたかは皆さんならすぐにわかるでしょう。

5. おでんを野菜がたっぷりとれる一品完結料理に変身させると市場が大きくなる

水産練り製品メーカーはおでんを鍋料理と考えています。そんなおでんが、他の鍋料理に押されてか、ここ数年芳しくありません。おでん低迷の理由は2つあると考えています。

  • 〆がない(鍋は最後にご飯や麺で〆ができる)
  • 華がない(練り物中心で地味さが目立つ)

この点は私が最近出した「天ぷらにソースをかける日本人」(家の光協会)に詳しく述べています。ここではおでんの顧客価値接点について考えてみます。おでんを鍋料理ではなく、次の料理に再構築すると市場が大きくなるでしょう。

『手軽に色々な野菜がとれるワンディッシュ・メニュー』

状況証拠があります。
食MAPでは夕食の支度にかかわる食卓動機と食卓状況を質問しています。ここ数年増えている項目があります。

  • 家族一緒に食卓を囲んだ
  • カロリーの少ない料理にした

家族団らん志向とヘルシー志向が高まっています。

カロリーの少ない料理の食卓に出たおでんと、そうでない食卓に出たおでんの中身の違いを比べてみました。下表がその結果です。

低カロリーの食卓のおでんには野菜がたくさん入っています。そうでないおでんは練り物や加工食品が大半です。メーカーは練り製品など加工食品でおでんの価値をデザインします。消費者は野菜でおでんの価値をデザインしています。メーカーの提供価値と消費者の認知価値が違います。表の結果に〆(ご飯か麺類)が加われば「栄養バランスがよく支度が簡単なワンディッシュ・メニュー」という新しい価値が生まれます。
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次回は顧客価値接点再構築のお話の最終回です。シングルス市場についてお話しします。

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