目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第63回 教科書が教える消費者行動理論は間違っている ~パート2~

今回は「教科書が教える消費者行動理論は間違っている」の後編です。
「カレーが食べたい」というニーズがはっきりしているB氏の消費者行動は、マーケティング本に書かれている消費者行動理論「欲求」⇒「動因」⇒「誘因」の一連の流れで行動が完結することをお話しました。しかし「カレーが食べたい」というニーズをはっきり持っていないC氏の消費者行動にはまったく当てはまらないことを申し上げました。
その意味をご説明しましょう。2つの意味があります。

1. B氏の「動機づけ理論」は教科書と逆転している
B氏の行動のきっかけとして最初に働いた要因は「カレーが食べたい」という「欲求」(ニーズ)です。しかしC氏の行動のきっかけとして最初に働いた要因は「美味しいカレーの香り」という「誘因」(インセンティブ)です。ところで誘因とは一体何でしょう?

聡明なる皆さんは、誘因(インセンティブ)に2面性があることに気づかれたでしょう。この2面性にB氏とC氏の行動の違いのトリックがあるのです。

  • 誘因は消費者にとっては行動の目標を探す心理要因です

  • 誘因は供給側にとっては消費者を惹きつけるマーケティング要因です。

誘因は消費者の心理要因と供給者のマーケティング要因の2面性を持っているのです。因みに「欲求」と「動因」は純粋に消費者の心理要因そのものです。この誘因の2面性がある状況下でジャストミートすると、それまで潜在化していたC氏の欲求と動因が同時方程式を解くように顕在化します。そしてC氏に行動をとらせるのです。
「因みにこんなこと何処の消費者行動理論の教科書にも書かれていません」

C氏の潜在的に持っていたカレーを探す誘因と、カレー屋のプロモーションであるカレーの匂いという誘因がジャストミートしました。その瞬間C氏は思いました。
『自分は、このカレー店(=動因)カレーが食べたい(=欲求)
前回お話ししたC氏の「食べたいカレーが食べたい」とはそんな意味です。
C氏の消費者行動理論は誘因が最初に働くという意味で、教科書に書かれている動機づけ理論が転倒しています。
C氏の行動は、欲求と動因が一挙に起きるという意味で、同時方程式を解く問題です。これに対しB氏の行動は、欲求⇒動因⇒誘因といったように逐次方程式を解く問題です。当然に同時方程式のほうが難問です。

2つの消費者行動論
カレーニーズが顕在化している カレーニーズが潜在化している
カレーが食べたい 食べたいカレーが食べたい
認識的 出会い的
カレー市場での選択 カレー市場だけではすまない

B氏とC氏の行動の違いをマーケティング活動の違いとして考えると、もう1つの重要な意味が浮かび上がってきます。B氏には無いC氏の第2の動機づけの意味があります。

2. C氏の欲求は作られる
B氏の選択は、カレー市場での選択にとどまっています。
C氏の選択は、カレー市場だけの選択にとどまりません。
B氏をターゲットにするマーケティングはカレー市場を前提にすれば済みます。企業の戦いはカレー市場における戦いです。ところが、C氏をターゲットにするマーケティングはカレーだけを市場にした戦いでは済まされません。うどん屋もコンビニ店の弁当も戦いに加わります。市場の範囲が広まり多次元的になります。
C氏は美味しいカレーの香りを嗅いだ時、初めて「カレーが食べたい」と思いました。もし蕎麦屋の美味しいダシの香りを嗅いだならば「蕎麦が食べたい」と思ったでしょう。カレーや蕎麦のダシの香りを嗅がなければ「コンビニの弁当を選択した」かもしれません。C氏の「食べたいモノ」に対する欲求は曖昧で流動的かつ出会い的です。
B氏とC氏の動機づけの違いで一番に大事なことは、C氏の場合は最初にカレーを食べたいというモノ欲求が顕在化している点です。C氏の食べたいモノ欲求はインセンティブと出会うまで眠っています。C氏の眠っているモノ欲求は「カレーの美味しい香り」というインセンティブ(誘因)によって初めて顕在化したのです。

名探偵はC氏の行動から新しい動機づけ理論を確信しました。
潜在化した欲求は誘因によって顕在化する
消費者のニーズはインセンティブによって創られる
C氏の消費者行動理論は、今の消費者行動理論を根底からひっくり返します。名探偵は100年前のドイツの有名な社会学者の言葉を思い出しました。
我々は商品に接し、それとの距離を感じたときに欲求を形成する(ゲオルク・ジンメル 「貨幣の哲学」1900年)
この言葉の意味は、消費者が商品と接し(=コトでの出会い=顧客接点)、商品との距離を感じたとき(誘因が働く)、初めて消費者のニーズが顕在化するという意味です。私はこれを「インセンティブ・マーケティング」(気付きのマーケティング)と呼んでいます。
「インセンティブ・マーケティング」は顧客接点価値を再構築させるマーケティング技術です。
顧客接点再構築については次回お話しします。

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