目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第54回 東西鍋合戦

今回は食文化の違いが東西にまだ息づいていることを証明しましょう。
少し時期おくれになりましたが冬の風物詩、鍋料理について東西の違いを見てみましょう。
使うデータは、食MAPの特別調査として2007年に実施した、11月1ヶ月間の食生活日記調査『有配偶者世帯(女性20~59歳:延べ12000サンプル)×2地域(東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、京阪神(大阪府、京都府、兵庫県))です。

問 関東と関西のどちらが鍋料理がよく出ている?

関東の鍋料理のTI値112
関西の鍋料理のTI値155
注)TI値:夕食1000回当りの登場頻度

鍋料理の登場頻度は関西のほうが多いです。

問 どんな鍋料理が登場しているでしょう?

答 おでん(関東TI値28 関西TI値41)和風鍋(27 36)キムチ鍋(12 12)
その他鍋(10 12)すき焼き(10 15)寄せ鍋(9 15)水炊き(9 17)
しゃぶしゃぶ(8 7)
東西ともに、おでんが1位、和風鍋が2位です。関東の登場頻度が多いのはしゃぶしゃぶのみです。キムチ鍋は東西同じです。それ以外は、全て関西の登場頻度が多くなっています。とりわけおでんは圧倒的に関西です。

おでんの中身の違いをみてみましょう。

■関東のおでんに入る割合が高い食材・調味料

練り製品(関東1.54品 関西1.41品)和風つゆ(0.29品、0.25品)
昆布(0.3品 0.15品)おでんセット(0.23品、0.08品)

■関西のおでんに入る割合が高い食材・調味料

大根、じゃがいも等の野菜類(関東0.89品、関西1.25品)
こんにゃく(0.41品、0.63品)卵(0.46品、0.56品)
豆腐(0.03品、0.06品)厚揚げ・がんも(0.33品、0.54品)
牛スジ(0.07品、0.29品)鶏肉(0.03品、0.14品)
いか・たこ(0.02品、0.06品)
醤油(0.13品、0.33品)かつお節・ダシの素(0.13品、0.24品)
みりん(0.07品、0.19品)料理酒(0.06品、0.13品)

関東のおでんは魚介の練り物が中心です。関西のおでんは野菜と豆腐、こんやくなどの野菜加工品が中心です。関西のおでんで忘れてならない牛スジは畜産品です。関東は海産物、関西は濃畜産物がおでんの主役です。
おでんはもともと上方で作られて、後に江戸に下った料理です。関西のおでんはダシが決め手です。関東のおでんは醤油が決め手といわれています。上方のダシ文化と江戸のタレ文化がおでんの味付けに生きています。
ダシは野菜の美味しさを引き出します。牛肉や鶏肉を和風ダシで調理する技も上方や京都で生まれました。京料理で有名な鶏すきがその1つです。関西のおでんの牛スジもその1つです。関西のおでんには、たまに鯨の脂皮であるコロが入っています。本書の後半で述べることですが、和風ダシを使った牛肉料理と鶏肉料理の人気が高いです。豚肉は和風ダシとあまり相性が良くありません。豚肉はコンソメ・ブイヨンなどの洋風ダシを使うと料理の人気が上がります。これも東西の食嗜好の名残りでしょう。

関東のおでんには6.5品(種類)の食材・調味料が入っています。関西のおでんには7.4品の食材・調味料が入っています。関西のほうが1品多いです。
おでん以外の鍋料理について、食材の使われる種類の多さの東西の違いを調べてみました。どの鍋料理についても、関西が多くの種類の食材を使っていました。
鍋料理以外の料理についても食材の使われる種類の東西の違いを調べてみました。多くの料理で、関東より関西の料理ほうが使う食材の種類が多いことが分りました。
さらに重要な事実が分りました。
「たくさんの種類の食材が使われる料理ほど、食卓の登場頻度が多くなる」

考えてみれば当たり前のことです。沢山の種類の食材と接点がある料理ほど、食卓に登場するチャンスが増えます。この事実、もう少し深く考えてみると、文化と深く関係していることが分ります。
一つの料理で、たくさんの種類の食材や調味料を使いこなす工夫は、それだけ調理の技を育てます。調理の技が食文化を育てます。食文化が食市場を育てます。昔から「食は上方から江戸に下る」と言われています。上方から江戸へ下る食文化の流れは、今でも変わらないのではないでしょうか。関西人は食に対するこだわりを持ち、料理の工夫に熱心なのでしょう。関東人はそれを受け入れる懐の深さを持っているのでしょう。ちょっとした名言が生まれました。

「食は西に学び東へ走れ」
この事実を関西人が知ったらどう思うでしょうか?

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