目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第53回 醤油味に包まれた日本の食卓に変化の兆し

日本の食卓がどう変化しているかを探るために、食卓での醤油の使われかたに迫ってみます。

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表は、2000年から2009年の醤油と魚料理の食卓登場回数を表しています。醤油と魚料理の食卓登場回数は大きく落ち込んでいます。これを見てすぐ感じることは...、

「日本の食卓の基礎が崩れている!」

しかし事は、そう単純ではありません。

下に掲げた数字は、醤油料理全体に占める、醤油を使った料理ベスト10(2009年)の割合です。10年間の変化を見るために2000年の割合も載せています。
刺身の割合が減っています。野菜のおひたしや納豆の割合も減っています。どちらも昔ながらの和風料理です。冷奴など経済的でノンクッキングな和風料理の割合は増えています。
野菜炒めや目玉焼き、豚肉のしょうが焼きなど、和風料理とは言いがたい料理の割合が増えています。

醤油を使った料理ベスト10

2009年   2000年
1位 刺身        4.7%   5.3%
2位 冷奴        4.6%   3.8%
3位 野菜のおひたし   3.7%   4.2%
4位 野菜いため     2.7%   1.5%
5位 目玉焼き      2.2%   1.9%
6位 納豆        2.0%   2.6%
7位 焼き餃子      1.9%   1.6%
8位 たまご焼き     1.9%   1.4%
9位 豚肉のしょうが焼き 1.9%   1.2%
10位 チャーハン     1.8%   1.7%

この結果は2つにまとめられます。

  1. 純和風料理(刺身や野菜のおひたし)の割合が減少している
  2. 和洋折衷的な醤油料理の割合が増加している

2つの事実の裏に隠れている日本人の嗜好を解釈します。
1 は食材の味と醤油の旨みでつくる昔ながらの和風料理の味
2 は油と肉の旨みと醤油の旨みが相乗効果的に作用している和洋折衷料理の味

日本の食卓は今日まで、次々と新しい食材を求めてきました。食材の多様さやメニューの品数の多さが、食卓の豊さの証でした。しかし料理の味つけは、アミノ酸の旨みで単一化されていました。その原点が 1 の和風料理です。これに肉や油の旨みが加わって進化したのが②の和洋折衷料理です。

2 の料理が増えることをもって、和風料理の崩壊とみるのは正しくありません。大体にして純粋の和風料理など、わが国の歴史には存在しません。いまでこそ和風料理の代表のように言われている料理の多くが、平安時代から桃山時代にかけて中国やヨーロッパから輸入された料理です。
関西の天ぷらや南蛮焼き(牛肉の味噌料理)、京都のひろうず(がんもどき)、長崎のしっぽく料理やカステーラ。因みに徳川家康は、京都に入り夕食に出された大鯛と甘鯛の天ぷら食べ、その晩、食あたりになり一命を落したといわれています。
明治維新以降、アメリカやヨーロッパから入った料理が和洋折衷の惣菜に化けました。コロッケはホワイトソースに白身の魚や貝、エビなど高級な食材を加え、冷やして固め衣をつけて揚げた高級料理です。それが日本に入ると、ジャガイモと申しわけ程度のミンチ肉の入った惣菜に化けました。バター炒めした米とスープに、トマト、白身魚、鶏肉を加えた高級料理のトマトピラフは、残りご飯にケチャップをかけたチキンライスに化けました。
日本では料理が発明される切っ掛けの多くが、本格的な洋風料理や中華料理を、庶民が親しむ惣菜に化けさせ、そのことによって日本の食卓に同化させるのです。これが日本における、料理の発明と普及の原理だと私は考えています。
ここで1つの仮説をたてました。
「醤油味で単一化されていた日本の食卓が、味の多様化を迎えつつある」

肉、野菜、魚などの素材の違い
調味料の違い。
煮る、焼く、炒める、蒸すなどの調理法の違い。

3つの違いから日本人の新しい嗜好変化が見てとれるでしょう。現在、弊社では日本人の味覚変化と食卓の構造変化、および将来展望を分析・研究中です

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