目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第50回 都会人に息づく郷土の味

私の推計では正月にお節料理を食べている家庭は8割です。これには及びませんが、元旦に雑煮を食べている家庭は7割以上です。日本の伝統文化はりっぱに健在です。この数字、ここ数年間、ほとんど変わりません。伝統文化は維持されています。今回は新春にちなんで雑煮の話をします。

食MAPでは主人と主婦の出身地を調べています。出身地の違いによって、食卓に登場する料理の種類や、調理の仕方が違います。そこで主婦の出身地の違いによって、雑煮の中味や味付けがどう違うか眺めてみました。データは少し古いですが、2008年の元日と1月2日に登場した雑煮を使用します。主婦の出身地を北海道、東北、北陸、関東、信越、東海、近畿、中国、四国、九州の10地域に分けました。

問 雑煮に入っている食材(調味料含む)数はいくつ?

答 北海道10.0品 東北7.4品 北陸7.5品 関東7.3品 信越8.8品
東海5.6品 近畿7.3品 中国8.9品 四国10.5品 九州6.6品

ある食文化研究者が「豊かな地域の雑煮は具材が少ない」と言っていました。北海道と四国の具材が一番多く、東海の具材が一番少ない。ならば駿河の国は豊かな国だったのでしょうか?
関東と関西は7.3品で同じです。中味について関東と関西の違いを見てみました。

問 関東で多く使われる食材・調味料は何?

答え
(具材)
鶏のもも肉 鶏むね肉
三つ葉 小松菜 ゆず・橙 長葱 生しいたけ しめじ ごぼう 白菜
かまぼこ 油揚げ 麩 こんにゃく 海苔
(調味料)
食塩 濃い口醤油 減塩醤油 ダシの素 料理酒 本みりん めんつゆ
うまみ調味料 干ししいたけ

問 関西で多く使われる食材・調味料は何?

答え
(具材)
人参 大根 里芋 ほうれん草
なると 焼き豆腐 青海苔
(調味料)
天然塩 薄口醤油 味噌 煮干・いりこ 鰹節 けずり節 昆布
日本酒 みりん風調味料

関西に比べ、関東の雑煮は華やかです。関西の雑煮は野菜中心でシンプルです。ならば江戸より上方が豊かだった証拠でしょうか?

関西出身の主婦の4人に1人が、味噌仕立ての雑煮を作っています。関東生まれの主婦は2%しか作っていません。

関西出身の主婦の5人に1人が薄口醤油を使っています。関東出身主婦は3%です。濃い口醤油を使う割合は、関東出身主婦47%、関西出身主婦33%です。

鰹節と昆布でダシをとるのが関西雑煮の特徴です。関西生まれの主婦は具材以上に出汁にこだわっているようです。天然塩や日本酒を使うこともその現われと思われます。

まだまだ、地域の食文化は息づいています。しかも日本の中心である関東のど真ん中で息づいています。
文化とは守るだけの事柄ではありません。文化とは創るための事柄です。文化を創るためには、変わらない事柄と変わる事柄をバランスよく育てることが重要です。全てを変えては文化が残りません。全てを変えない文化は生き残れません。変わらぬ価値と変わる価値を上手に重ねる知恵と技が、文化や伝統を育てます。そうした知恵と技が、今でも都会人の間出で息づいています。

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