目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第47回 物言わぬ消費者に語らしめる方法

日常的であるが故に潜在化し言葉にならない生活者の意識を、持ち物やしぐさなどから生態学的に観察し読み取る調査手法が、昭和の初期に開発されました。しかもこの日本で!

消費者のニーズを調べるには2つの方法があります。

  • アンケート調査やインタヴュー調査等、消費者に直接聞く方法
  • 間接的に消費者の行動を観察する方法

後者の調査方法を「考現学」と言います。「考現学」は、民族学者である柳田国男が提唱し、折口信夫や今和次郎などの民族学者が発展させた日本独自の巷(ちまた)観察法です。
「考古学」は、物言わぬ大昔の土器や化石に「古代を語らしめる調査手法」です。
土中から発掘された土器は何もしゃべりません。しゃべらない土器を手にした考古学者は、土器が発掘された場所を丹念にしらべます。そして土器が竈(かまど)跡の近くから出土したことを重視して、「これは食べ物を煮炊きする道具ではないか?」と推理(解釈)するのです。

「考現学」は、物言わぬ昭和の人々の持ち物やしぐさから「現代を語らしめる調査手法」として開発されました。
現代社会の入り口である昭和の初期、日本の民族学者は日本人のライフスタイル研究を盛んに行いました。今日では「風俗学」と云われています(京都大学が有名です)。当時、新しい風俗に対するニーズを市井の人々に聞いても、表現する言葉を持っていませんでした。「何故?」を聞いても無駄です。そこで未開の社会を観察するために文化人類学者が用いた観察方法を参考に「生活生態学観察法」を編み出しました。生活者の日常の行動やしぐさや、使用される用具を観察し、それら事象の間における意味を読みとる「解釈学」という分析方法を開発しました。

人々の持ち物やしぐさを観察し、その意味を読みとることによって、新しい風俗が探求されました。若い女性のハンドバッグの中身の持ち物を観察することで、当時の若い女性の新しいライフスタイルを読みとりました。銀座の街角に落ちているタバコの吸い殻の銘柄や、吸口の形状から、当時の都会の男性のライフスタイルをタイプ化しました。
図は、昭和初期の本所深川に住む貧しい住民の「欲しい持ち物調査」の結果です。深川に住む庶民の欲しい持ち物調査から、下町庶民の風俗や価値観や生活スタイルを読みとりました。
潜在化した市場における生活者行動を探るためには、生活現場の事象を「生態学的に観察する眼」と,観察した事象の背後にある意味を「文脈として読みとる力」が要求されます。

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私は、この生活現場の「事象観察眼」と「文脈読解力」を高める情報技術が21世紀に登場すると睨んでいます。昭和初期の学者や研究者が、膨大な時間と手間をかけた生活生態観察を、容易に行える情報技術が登場します。その1つが「食MAP」です。「食MAP」は、日本の食卓の毎日を観察する、世界初の日本人の食卓生態観察システムなのです。

21世紀の情報技術を使い、生活者と企業がネットワークされ、生活現場の商品の使われ方や使われた意味がわかると、これまでの消費者行動研究は大変革するでしょう。毎日の生活現場での商品の使われ方がわかると、生活者自身ですら気付いていないモノやコトの価値が見えてきます。
日本の食文化を十分に理解した食品メーカーや食品小売業の登場を期待します。同時に消費者の方々に期待しています。日本の食文化の力学を知り、日本の食文化を育てながら、私たちの食生活を豊かにする人たちを食の達人と呼んでいます。

追伸 人の個性とはその人の無意識な事柄や感情が集積されて形成されます。さすれば人々の個性の集積は、その人々がつくる集団や社会の文化そのものです。少し哲学に過ぎる...?

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