目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第36回 CVSの売れ筋商品の秘密~敵は本能寺にあり パート1

コンビ二店は、売れ筋商品中心の売場作りのために単品管理を一番に重視しています。狭い売場に置ける商品の種類に限りがあるので、売れ筋商品を中心に、効率の良い売場作りを心がけているわけです。最近はPB商品の開発に力をいれていおり、仕入れ商品をコントロールするだけに止まらず、開発から生産までの管理にも力を入れざる得ない状況です。
この単品管理が問題です。
単品管理の売れた・売れなかったの情報を結果情報といいます。商品が売れた背景にはそれなりの理由があります。これを原因情報といいます。大事なことは次の一言です。
「結果情報が判っても原因情報が判らなければ意味がない」
古い話ですが、次のような話があります。

あるコンビニ店でおにぎり殺人事件が起きました。...と言っても、本当に殺人事件が起きたわけではありません。喩えの話です。
コンビニ店のオーナーが、店のおにぎりの時間帯別の売上表を見ていた時、ある事実に気付きました。午前中に鮭おにぎりが売れ筋商品になり、午後にはオカカおにぎりが売れ筋商品になっていました。オーナーは午前中に鮭おにぎりが売れ筋商品になるのは合点がいきました。
『朝食に鮭を食べるのは日本人の昔からの習慣だ』
しかし午後にオカカおにぎりが売れ筋商品になる理由がいまひとつ分かりません。その理由がよく分からないままPOSデータを信用したオーナーは、午前中には鮭おにぎりを重点に仕入れ、午後にはオカカおにぎりを重点に仕入れました。午前中の客はサケおにぎりを求めており、午後のお客はオカカおにぎりを求めているとPOSデータから判断したわけです。つまり次のように考えたわけです。

午後の客はオカカおにぎりを買った = 午後の客はオカカおにぎりが好き
(殺人犯の行動)            (殺人犯の動機)

しかし事件の真相は全く違っていました。ここで名探偵の登場です。
名探偵は犯人の犯行動機を調べました。すると次の事実がわかりました。

●事実1 コンビニ店にくる客は午後も鮭おにぎりを求めていた

『コンビニ店のオーナーの判断とは違うではないか。何故だ?』
名探偵は売場の聞き取り調査を実施しました。思わぬ状況証拠が見つかりました。

●事実2 午後に鮭おにぎりが売り切れ、売場にはオカカおにぎりしか残っていなかった

『事件の謎は解けた』

コンビニ店に来店する客の多くは、それほどおにぎりの中身にこだわりを持っていなかったのです。鮭おにぎりがどうしても食べたい客であれば「鮭おにぎりが無いではないか」と文句の一つも言うはずです。もしおにぎりの中身にこだわりを持っていない客であれば、売場に残ったオカカおにぎりを見て「まあ、オカカおにぎりでも良いか」と思い、手を出すでしょう。鮭おにぎりを求めて他の店に行った客のことはわかりません。名探偵はおにぎり殺人事件から1つの教訓を得ました。
『売場に置いてない商品は売れない』

上記の言葉は一見して当たり前のことを言っているだけです。しかしこの言葉には、深い意味が隠されています。
商品は売場に置くと売上の大小は別にしてそれなりに売れます。これが見える事実です。しかし売場に置いた商品よりもっと売れる商品が、売場に置いてないために売れないという見えない真実が、売場担当者には判らないのです。名探偵はそのことに気づいたのです。午後に鮭おにぎりを仕入れば、オカカを仕入れるより、もっと売上げが上がったはずと名探偵は推理しました。見える事実と隠れた真実の大きな違いです。
「これからの世の中、見えない事柄を見る技を身につけることが大切です」

POSシステムが導入されたコンビ二店で、こうした事態が頻発化しています。目先の事実しか見えず、売れた売れなかったの結果の背景が分からない。もっと売れるチャンスがある商品が判らない。もちろん他の店に流れた客のことは全く判らない。しかも肝心の消費者ニーズがコンビニ客のように半ば潜在化しているから、事態はますます混乱する。
コンビ二店は自店のPOSデータ以外に頼るべきデータがありません。そのため自店のPOSデータに頼るコンビ二店は「何が売れた」という結果と「お客が何を望んでいるか」という原因をグチャグチャにしています。そんな状況下でPOSデータを鵜呑みにすると、非常に危険な事態を引き起こします。今でもこのような事件が日常茶飯事に起きています。

単品を管理するためには管理する基準が必要です。単品管理の手法としてカテゴリー・マネジメントが有名です。レトルトカレーや主食系調理済み冷凍食品といったカテゴリーを基準に、カテゴリー内の単品を管理する手法です。
カテゴリー・マネジメントは,売場カテゴリーを「顧客満足」と「売場効率」の2つの視点から定義し、顧客満足と売場効率の両方の向上を狙う販売管理技術です。20年前にアメリカから導入されました。当時、ある大手小売店が熱心に取り入れようとしました。概念としては素晴らしい。しかし実際のオペレーションができません。その大手小売店がカテゴリー・マネジメントを成功させたとは聞いていません。カテゴリー・マネジメントがオペレーションできない理由は次の2つの基準(規準)がないためです。

●顧客満足でカテゴリーを括る基準がない

レトルトカレーや主食系調理済み冷凍食品といったカテゴリーの売上を基準に、カテゴリー内のそれぞれの単品を管理します。カテゴリーの括り方は、メーカー側や小売側の都合で行います。コンビ二店にくる顧客の用途や満足でカテゴリーを定義する基準は持っていません。朝食カテゴリーやパスタ料理カテゴリーといった、食卓シーンやメニューで売場をデザインするノウハウがありません。商品開発のノウハウもありません。

●顧客満足のカテゴリーを日々管理する規準がない

売場を管理するためのデータはPOSデータだけです。POSデータによる管理は、単品管理のレベルに止まります。カテゴリーは単品より上位の概念です。カテゴリーを管理するためにはカテゴリーより次元の高い管理規準データが必要です。売場にカテゴリーより高い管理規準データは存在しません。

次の図は、単品管理とカテゴリー管理の違いを概念化した図です。管理するには「管理される対象」と「管理する基準」が必要です。単品管理とは単品が管理される対象で、カテゴリーが管理する基準になります。

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例えば調理済冷凍食品というカテゴリー規準によって「味の素のエビ・シュウマイ」という単品が管理されます。これを喩えて言えば管理される単品が平社員の行動で、管理するカテゴリー規準が部長の判断です。ではカテゴリーという部長の判断を、誰が管理するのでしょうか。売場にはカテゴリーより高い次元のデータが存在しません。POSデータをいくらこねくり回しても、単品次元の情報しか得られません。
「部長を管理する社長がいない!」
これが売場の単品管理の現状です。ここで発想を180度転換します。

食品売場のカテゴリーとは、消費者からみれば料理の食材です。料理の食材は売場のカテゴリーと同じなのです。食卓には食材より次元の高い存在があります。料理や食卓です。ということは・・・
『料理や食卓を管理規準にすれば、売場のカテゴリーが管理できる』

POSデータのカテゴリー・マネジメントの限界は、そのままコンビ二店の限界につながっています。売場のデータと食卓のデータを重ねることで、本当の意味のカテゴリー・マネジメントが可能になるのです。図表のPI/TI分析がそれです。私がこの手法を主張して20年近くなります。しかし売場はなかなか耳を貸しません。耳を貸さない大きな理由は、売場を科学しようという意思を持った小売担当者がいないことです。大体にして、POSデータをマーケティング情報として自ら活用している売場は皆無です。
POSデータのみに頼るコンビ二店の売場作りやPB開発の現場は、まるで暗闇に石つぶてを投げる様です。自分の足元がわからず、相手もわからず、ただ暗闇に石を投げている。当たるわけがありません。
次回では、コンビニ店のPOSデータでは絶対にみえない売れ筋商品の秘密をシングルス食MAPを用いてお見せしましょう。お楽しみに!

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