目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第35回 生活革命を起こす家庭版POS

生活者の意味

「生活者がインターコードを使う社会」。これが今回のお話です。
生活者や社会にとっての有用な情報が入った商品コードを結ぶインターコード。それをインターネットを通して生活者が活用すると、生活革命が一気に進みます。この活用装置を[家庭版POS(Point Of Sales)]と呼んでいます。
「家庭版POS」とは、「売るためのPOSシステム」の価値を180度転換させた表現です。生活者がインターコードを使いこなすシステムです。Salesの"S"という言葉は、本来適切ではないのですが比喩的に使っています。
ところで「生活者」とはいったい何でしょう?

答え:生活の価値を生産する者

生産者に対して消費者という言葉があります。
生産者は商品を生産する者
消費者は商品を消費する者

上の言葉には「生産者が優位に立ち消費者が受身に立つ」という語感が含まれています。だから国は、受身の消費者を保護するために消費者庁を設立しようとしているのです。国の消費者庁構想には、生活の価値を生産する生活者を育てるという発想は、全くありません。私から見れば、これまでの生産者優位を前提にした対処療法機関です。国は、大胆に発想を変えるべきです。もっと先を見通した「生活者庁」にすべきです。こうした大胆で総合的な発想ができないのが、日本に政治・行政の貧困です。
生産者は商品を消費することにより生活の価値を生産する存在です。逆に生産者やサラリーマンは商品を生産するために、自分の生活の価値を消費している存在です。その結果が、今回の派遣切りや大量解雇です。これではまるで人身売買がまかり通る時代の再来です。

家庭版POS

情報ネットワーク社会の本当の意味って何ですか?

答え:生活の価値を生産するために、これまでばらばらに存在していた情報やエネルギーを私達自身がネットワークする社会

商品やサービスについているコードをネットワークし(インターコード)、生活者が自分の生活をマネジメントすることがインターネット社会の本当の姿だと考えています。
インターコードを生活者が使いこなす社会は、言い方を換えると「商品がメディアになる」ことです。商品をメディアにして生活者と企業が双方向的な関係をつくる社会です。これまで「商品はメッセージ」といわれていました。しかし、これからは「商品はメディア」にならなければなりません。図がそのことを表しています。因みに図は1991年に描いた図です。

注)図は1991年に描いたもので、インターコードという言葉はまだ考えつかず「Barcode」となっています。

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生活者と企業が、リアルな世界(生活現場)とバーチャルな世界(売場)で商品をメディアにして、パソコン画面で双方向的に繋がっています。
企業にとって商品は売れてゴールです。しかし生活者にとって商品は購入してスタートです。商品を生活財として生活現場で使用し、満足して初めて生活者にとってゴールです。
図のリアルな世界の商品価値をA+aと表しています。販売される時点の商品価値はバーチャルな世界(売場)でAでした。その商品が生活現場(リアルな世界)で生活者に使われ、評価され改良された部分が+aです。商品は生活現場で再生産されるのです。生活者が生活の価値を生産するとは、生活現場で商品が再生産されることの意味です。

家庭を守る主婦/主夫が「これこれ!こんなの欲しかった!!」と思わず叫ぶ「ホームコンピュータ」「家庭版POS」です。ホームコンピュータの子機としてパソコンや携帯電話が活躍します。一家に一台の「家庭版POS」は、現在のインターネットとは違った世界をつくるでしょう。もし国がインターコードの整備を進め、一家に一台の「家庭版POS」の設置を進めれば、アメリカがこれから進めようとしているグリーンニューディールを越える社会革新を起こすでしょう。

家事の外部化から都市機能の家庭内化へ

かつて「家事の外部化」という言葉が頻繁に使われました。家事の外部化は、いわば手抜きです。最近、手抜きは当たり前です。ただ手抜きを訴求するだけでは商品の付加価値は高まりません。家事の外部化は視点を変える必要があります。「家事の外部化」を180度ひっくり返します。すると「都市機能の家庭内化」となります。この2つは全く価値が違います。ここで小話を一つ。

なにかとのんびりしたい休日。主婦にとっても安息日と決め込みたい。食事の支度なんて本音のところは面倒です。しかし家族のために何かを食べさせなければなりません。主婦は悩みました。
「え~い。レトルトカレーにしちゃえ!子供だってお父さんだって大好きなんですもの。」。しかしどこか後ろめたさが残ります。
「え~い。宅配ピザにしちゃえ!」。
家族は全員「わ~い!」と大喜び。

小話の中に登場する主婦の最後の決断に後ろめたさは微塵だにありません。同じ手抜きなのにどうしてそんなに違うのでしょうか?
生活の中における食の価値が全く違うからです。同じ手抜きでもレトルトカレーは家事の外部化(手抜き)です。宅配ピザはレストランが我が家に飛び込んできたようなものです。「我が家は街のレストラン」になります。レストランという都市のサービスが家庭内化されたわけです。だから「お母さんは偉い!」となります。

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図は家庭機能の外部化と都市機能の家庭内化の関係を表しています。いったん外部化された家庭機能に、都市機能という付加価値が加えられ、再び家庭に提供されます。これを「家庭版POS」を使って実現するのです。

食MAPは家庭版POSのプロトタイプ

ここで白状します。実は食MAPは「家庭版POS」のプロトタイプ(原型)なのです。私は1994年に食MAPを開発しました。当初の目的は「家庭版POS」の開発だったのです。ただ今から15年前に、生活者に有効な情報やサービスを提供する技術も環境(コインの表側)もありませんでした。だから生活者に食MAPのモニターになってもらい、謝礼を払い、逆に生活者の情報を企業に提供する(コインの裏側)マーケティング情報システムとして立ち上げたのです。でもそろそろ技術も環境も揃ってきています。インターコードを通じて企業から生活者に情報やサービスなどを提供する時代が来そうな気配を感じています。コインの裏側と表側が、双方向的に重なり合う時代がすぐそこまで来ています。
生活者が商品のコードをスキャンすると、インターコードを通じて、パソコン画面やテレビ画面に詳しい商品情報や栄養情報、レシピ情報が現れます。商品コードを利用した初歩的情報提供は食MAPで既に行っています。例えば食MAPを使うと、購入した日、使い出した日、使い切った日がわかります。食MAPでは購入日、使用開始日、使いきり日が付加された家庭内在庫マスターが各家庭に構築されているのです。
食MAPモニターの方々はこの在庫マスターを使い家庭内在庫を管理することができます。昨年から始めたシングルス食MAPでは独自の生鮮食品コードと惣菜コードを開発しました。その結果、全ての食品の在庫管理が可能になりました。生鮮食品を中心とした食品の在庫管理は主婦にとって大きな関心ごとです。冷蔵庫にストックしている食材をつかったその時期のお奨めメニューとレシピを見る事もできます。
食MAPからその日の食品の在庫一覧(購入日付き)をプリントして買い物をしてもらう実験をしたことがあります。売場と家庭内在庫の両方を見ながら買物ができるため、無駄な買い物がなくなり、賢い買い物が出きると好評でした。

食MAPと家電製品や調理機器とリンクした「家庭版POS」ができると、台所は大変身します。例えば食MAPと冷蔵庫がリンクすると、冷蔵庫は家庭の流通センターになります。冷蔵庫の在庫管理を通じて、必要な食材が配達してもらうことが可能になります。食品の安全管理も可能になります。
食MAPを通じて家庭と食品メーカがネットワークされた「家庭版POS」は生活者と食品メーカーの関係を大きく変えます。食品のバーコードを電子レンジやオーブンなどの調理器に付いているスキャナーでスキャンすると、「家庭版POS」を通じ食品メーカーや家電メーカーの調理データベースにアクセスし、季節にあった調理プログラムが調理器具に入力され、簡単で美味しい料理を作ることができます。調理ソフトはインターネットから随時新しいものと入れ替えることができます。食品と調理機器がハイテックにドッキッングして新しい手作りスタイルが誕生します。今のインターネットは電子レンジと食品がリンクされておらず、情報次元の価値しか提供していません。現在、ある大手家電メーカーは調理家電の ITネットワーク化を重要な戦略テーマにしています。家電製品の付加価値化を狙っているのでしょう。

食MAP言語

バーコードに多くの情報をいれることは難しいです。しかしバーコードをインターネットのアドレスとして使うと、食MAPマスターを通してメーカーから調理ソフトをダウンロードすることが可能になります。このマスター体系こそ、インターコードそのものです。インターコードとはコードの体系なのです。
図は食MAPマスターをベースに考えたインターコードの体系です。消費者側に役立つ材料コードとメニューコードがリンクされています。材料コードが企業の商品コードと1対1の関係にあります。商品コードに使用原材料がリンクします。両者をつなぐ言語を「食MAP言語」と呼んでいます。
このコード体系に様々なデータベースや使用アプリケーションソフトがリンクします。食MAPの商品マスターはインターコードのプロトタイプなのです。

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「家庭版POS」はハイテク機器に囲まれた飛行機のコックピットのようなものです。もちろんパイロットは生活者です。コックピットで家庭版POSを操作すると、好きな食の世界へ誘ってくれます。「家庭版POS」「空飛ぶ魔法のキッチン」とニックネームで呼ぶこともありあます。

これまで3回にわたり「技術革新の環」を始めに、21世紀の生活革命が起きる事をお話しました。私がNTTデータのシステム科学研究所に入社し、食MAPの実験を行っていた1996年の春、 NHK「おはよう日本」に食MAPがニュースに取り上げられました。このニュースの締めくくりに、アナウンサーが言った言葉を思い出します。

「今はパソコンがパソコン売場や家電売場で売られていますけれど、台所の片隅に当たり前の顔をしてこうした新しいパソコンが同居するという時代が、遅かれ早かれ来るんではないかと思います。」

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