目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第34回 社会の価値連鎖を繋ぐシステム

ソーシャル・ロジスティクス

技術に「個の技術」と「場の技術」があることを、前回お話しました。
21世紀初頭、画期的な物資次元の「場の技術」は登場しないでしょう。一方情報次元とエネルギー次元の「場の技術」が革新的に融合するでしょう。第1の最有力候補がインターネットといわれています。但しインターネットは情報次元の「場の技術」です。社会革新を起こすためには、エネルギー次元の場の技術が必要です。これを考えついたのが15年前の1994年です。そのことは前回「技術革新の環」でお話しました。図は前回お話した「技術革新の環」を「場の技術」で表したものです。

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社会革新が起こる際、必ず3つの「場の技術」の革新が関係しています。

  • フィジカル・ネットワーク(物質次元の場の技術)
  • サイバー・ネットワーク(情報次元の場の技術)
  • バリュー・ネットワーク(エネルギー次元の場の技術)

フィジカル・ネットワークは物や空間に係わる物質次元の「場の技術」です。高速道路や鉄道がそうです。
サイバー・ネットワークは情報に係わる「場の技術」です。テレビやインターネットが該当します。サイバー・ネットワークはインフォメーション・ネットワークと呼ぶほうがわかりやすいかも知れません。ただ人間の精神面も視野に入れたいためサイバー・ネットワークと表現しました。エネルギー次元の「場の技術」は送電線やガス・パイプラインです。エネルギー・ネットワークと呼ぶことも出来ます。米国のオバマ大統領が進めようとしているグリーンニューディール政策もその1つです。ただ私は15年前、自然界の技術だけでなく、人間の生活の意味や社会の文化価値を視野にいれたいためバリュー・ネットワークと表現しました。

21世紀にはサイバー・ネットワークとバリュー・ネットワークの2つの「場の技術」が革新的に融合して生活革命が起きるというのが、1994年以来、ずっと持ち続けている仮説です。サイバー・ネットワークの最有力候補はインターネットです。ではバリュー・ネットワークとは何でしょうか?

答え:コード(Code) ⇒ インターコード(Intercode)
   1991年の仮説   1994年の仮説

コードの2つのフォース

コードは商品を実態化させる2つの力(フォース)を持っています。

  • 商品のアイデンティティ(自己同一性)を保証する
  • 変化する商品の社会的価値の繋がりを保障する

例えば、私はスウォッチ時計を持っています。最初はケースにバーコードが付いていました。バーコードが付いているので、この時計がスウォッチであることを証明できました。しかしケースがない今、スウォッチであることを証明できません。
コードは商品のアイデンティティを保証しています。

第2の実態化の力は、商品が社会的段階で変化する価値連続性を保障する力です。価値の連続性などと、少々難しいので例を出しましょう。
コードはスウォッチが生産から廃棄に至るまでの、様々な社会段階での価値を保障してくれます。スウォッチは生産段階では生産物としての価値がありました。安くて良い材料を使うとか精巧な機能を持つ価値です。コードを使って効率的な原材料調達システムが出来あがっています。
運ばれる段階のスウォッチは流通物としての価値があります。コードを使って、適性な配送システムを組むことができます。メロンの産地ではレーザー光線を使い、食べ頃メロンの糖度を測り出荷の効率化を図っています。その1つ1つのメロンには、バーコードが付いており、コンピュータでメロンの美味しさと出荷管理をしています。
売場のスウォッチは商品としての価値があります。私はスウォッチのデザインにほれ込み購入しました。バーコードから読み取られたPOS情報が、売れ筋か死に筋かを教えてくれます。
所有した時点でのスウォッチは生活財としての価値があります。私は購入したスウォッチが、時刻を少し遅れ気味に伝える点に不満をもっています。しかし私と企業との間に接点のないスウォッチから、メーカーは私の不満を知ることはできません。
最後の段階では廃棄物としての負の価値がでてきます。しかしメーカーは私のスウォッチがどうなったかを知るよしもありません。リサイクルに対する負担は、企業はもちろん消費者にとってもますます大きくなっています。いくつかの食品メーカーは自前の商品コードを開発し、自社商品の安全性を保証しています。昨今話題になったトレーサビリティ・システムもコードが鍵です。
商品は様々な社会段階を経ながら価値を変化させるのです。と言うより、変化することで自らの価値を保障しているのです。この社会的な価値連鎖のシステムを概念化したのが次の図です。

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「ソーシャル・ロジスティクス」と呼んでいます。コードがソーシャル・ロジスティクスのハード技術の役割を果たしています。ビジネスの世界ではサプライチェーン・マネジメントやロジスティクスに関心が集まっています。しかしこうしたシステムは、ソーシャル・ロジスティクスの川上から川中までの価値連鎖を保障するシステムでしかありません。これを「ビジネス・ロジスティクス」と呼んでいます。「ソーシャル・ロジスティクス」は、川上と川中の「ビジネスビジネス・ロジスティクス」を包含し、さらに川下の消費と廃棄を包含した価値連鎖システムです。
どうです...、商品の社会価値連鎖を効果的に結ぶ技術にコードがあることを、ご理解願えたでしょうか。

インターコード

コードは食品や日用品のパッケージについているバーコードが一番良く知られています。最近は2次元コードなど様々なコードが開発されています。このコードには色々な技術的、制度的な問題があります。例えば現在のバーコードには一応の国際規準がありますが、入れるべき内容が国により企業によりバラバラです。コードを統一的に管理する体系と制度がありません。コードが社会インフラになっていません。
最大の問題は生活者に役に立つ情報がバーコードに入っておらず、取り出す仕組みがないことです。消費者からみるとバーコードはスーパーのレジを通過する際、店側に吸い取られる無用の長物です。しかしバーコードのコストは消費者が負担しています。ここに私は疑問を感じました。


『バーコードは生活者のものではないのか』
『バーコードは社会の共有財ではないのか』

社会価値連鎖をコントールするためには、生活者がコードを使いこなすインフラが必要です。その技術をインターコードと呼んだわけです。「インターネット」は様々な情報ネットワークをネットワーするという意味で命名されました。
様々なコードをネットワークするコードという意味で「インターコード」と命名しました。私の造語です。
Codeは通常、符号とか記号と訳されます。一見して情報次元の言葉です。ただ社会規準とか法典という意味があります。コードはコードの対象の存在の秩序や本質に係わる規準を表現する言葉なのです。コードには物の存在価値やエネルギーを引き出す触媒の役割があります。生命の秩序の単位としての遺伝子コードが良い例です。遺伝子コードは情報ではあると同時に、生命力を示すエネルギーでもあります。商品の価値をコードから引きだし、生活に活用する時代が訪れます。
次回は生活者がどのようにインターコードを使うかについて未来生活をデザインしてみましょう!

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