目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第33回 21世紀の技術革新は何?

『個の技術』と『場の技術』

技術は2つの局面で発展すると考えられます。車の技術が大いに発達したと主張する人は、車の走行性や安全性、経済性の飛躍的な進歩を取り上げます。車の技術はまだまだ進歩していないと主張する人は、一向に解決しない交通事故や交通渋滞、環境問題を指摘します。前者を『個の技術』と言い、後者を『場の技術』と言います。社会は2つの技術によって支えられています。
まず、画期的な個の技術が発明されます。その後、個の技術をベースに場の技術が開発され、整備されます。場の技術が整備されると世の中は大きく変わります。車が開発され、道路が整備され、高速道路が建設されて車社会が登場しました。コンピュータが開発され、インターネットが整備され、様々なITソフトが作られ、携帯電話に繋がることでインターネット社会に大変身しました。場の技術は個の技術のインフラとなり、社会背景そのものになります。ここ数年の間に携帯電話に依存する社会が急速に進みました。私が観察したところ、東京の電車の乗客の5人に1人は携帯電話に夢中になっています。
『場の技術』は2つの次元で社会革新を引き起こします。

第1は物理的次元での革新です。私はこれをワイドニング「Widening」と呼んでいます。ワイドニングは物理的次元の時間や空間の壁を破る力です。いまのインターネットの多くがこの力を発揮しています。全ての知識や情報が、瞬時にインターネットによって得られます。結果、情報検索と情報選択だけが、人々の関心事になる社会が出来あがりつつあります。経済活動は時間や空間の壁を破りグローバル化を促進しています。その結果が今回の世界同時大不況の勃発です。ITを駆使した金融工学とインターネットに胡坐をかいた、欲に眼がくらんだ愚かな人間の仕業の結末です。これを称して文明の力と言います。

第2は文化次元で革新を引き起こす力です。ディーピング「Deeping」と呼んでいます。ディーピングは精神次元の時の流れや関係の広がりをつなぐ力です。歴史の価値や社会の価値を繋ぐ力と言い換えて良いでしょう。カルチャ-(文化)という言葉は、カルティベイト(耕す)に由来していることは良く知られています。「土地を深く耕す」の表現のように、ディーピングは時代や社会の価値を深く繋ぐ力です。
少し難しい事柄ですが、ワイドニングは社会に画一性と同時性をもたらします。ディーピングは社会に多様性と連続性をもたらします。現在のインターネットはワイドニングを強力に推進しています。しかしディーピングには対応できていません。パソコンや携帯電話のメールは、手書きやワープロの文章に比べ、文章の構造が平たくなるのがその良い例です。文章の構造は文化や社会の構造に深く関わっています。水が高きから低きに流れる様に、21世紀人の精神構造は安きに流れています。文化の構造と社会の構造が解体されています。

時代を革新する技術のサイクル

歴史的な技術革新は、3つの技術が融合して起きることをご存知ですか?
3つの技術とは「エネルギー」「物質」「情報」です。
3つの技術が巴の様に重なりあい、融合することで技術革新が起きます。「技術革新の環」と呼んでいます。下の図がそれです。
生産革命は19世紀のイギリスで起きた繊維生産技術の革新が始まりといわれています。生産革命はエネルギー技術と物質技術の2つの革新が融合して起きました。蒸気機関や水力発電など新エネルギー源が発明され、様々な新素材や新製品を生産する技術が開発されました。生産革命はその後、大量生産システムとして結実し、20世紀初頭にオートメーション・システムへと発展しました。

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20世紀に流通革命が起きました。生産革命の象徴であるフォード・システムに対して、クライスラー・システムは車をファッション商品に仕立てるシステムを開発しました。フォードは車の型を変えないことで廉価な大衆車販売を市場戦略とし、クライスラーは車をシリーズ化し、モデルチェンジによる市場拡大を戦略としました。そこに情報技術が使われました。テレビやラジオ、新聞、雑誌などマスメディアの威力が如何なく発揮されました。
21世紀の中頃に、消費者行動論やマーケティング理論が発展したのは、情報理論と情報処理技術の革新があったからです。商品の情報化はブランドという大衆ファッションを誕生させました。同じ品質でも有名ブランドは数倍から数十倍の値段がつきます。商品の情報化を商品の付加価値化と呼びました。
物質技術と情報技術が融合は、流通(物流)システムを飛躍的に発展させました。コンピュータ技術は、流通業界にチェーン・オペレーションという経営革新をおこしました。その結果、旧来の商業資本にとって代わり巨大流通資本が誕生しました。流通業界は現在、ロジスティクス・システムという物流システムの革新を急ピッチに進めています。20世紀は物質技術と情報技術が革新的に融合した流通革命の時代でした。問題はこれからの21世紀です。

閑話休題 商品の情報化と情報の商品化の違い

「商品の情報化」と「情報の商品化」は意味が大きく違います。
「商品の情報化」はテレビや新聞のマスコミ広告でよく使われる手法です。不特定多数の消費者に売り込む場合、商品の機能や品質の良さを事細かに説明しても、消費者の評価が異なり市場を狭めてしまいます。「それより手っ取り早くイメージで売り込め!」といったやり方が「商品の情報化」です。ムードたっぷりのBGMの中で軽やかに走る車のCMシーンがそうです。「商品の情報化」は不特定多数の生活者にとりあえず買ってもらうための商品のイメージ化です。しかし商品のイメージ化だけでは消費者の心はつかめなくなっています。
「情報の商品化」とは、訴えるべき情報のどこに価値があるかを消費者に分かりやすく伝えることです。言い換えると、商品として価値があるポイントを情報としてきっちりと伝えることです。当然、ターゲットを明確にしてターゲットが求める商品の品質や機能の価値を明確に伝える必要があります。そして「消費者の目線」に合わせて商品価値を伝えなければなりません。その1つの方法が口コミ情報です。口コミ情報は消費者の体験情報です。消費者の体験情報は消費者の目線情報です。
大切なことは「商品の情報化」と「情報の商品化」を上手に両立させることです。

「技術革新の環」の法則から考えますと、21世紀の社会革新は情報技術とエネルギー技術の革新的な融合から起きると予測できます。ではどうやって情報とエネルギーが革新的に融合するのでしょうか。
私がこの問題を始めて考えたのは、今から15年前の1994年頃でした。インターネットという言葉が、ようやく世間で言われ始めた頃です。この問題を果敢にも取り上げた書物「インタ-コードが市場を変える」(NTT出版)を1996年に出版しました。
残念ながら、本は全く売れませんでした。ほとんどの人々が関心を示してくれませんでした。インターネットすら十分に見通せない時代に、インターネットとは別次元の技術を論ずるなど、まさに100年早いでした。しかし、今でもこの予測は当っていると考えています。

因みに「技術革新の環」はこのコラム30 未来を見る事ができる「時代の振り子の要」でご紹介した「3角形の発想」を使った予測方法です。「技術革新の環」は三角形なのです。未来を見るためには3角形の発想が一番です。

「情報技術とエネルギー技術がどうやって融合するか?」
当時、この疑問に対する解答を考えるのに相当苦労しました。あるときひょんな切っ掛けから、その謎が解けました。「3つの技術」を「人間の3つの要素」に置き換えたのです。人間は技術と同じ3つの要素で出来あがっています。「肉体」「精神」「活力」です。すると次の様になります。

肉体=物質
精神=情報
活力=エネルギー

技術革新を人間革新に置き換えます。こうした発想法をメタファー(隠喩法)と言います。すると情報技術とエネルギー技術が融合することは、次のように解釈できます。
「人間の精神と活力が革新的に融合する」
この解を思いついたとき、私はちょっとした興奮を覚えました。「技術革新の環」は100年を単位に回っているようです。

生産革命 ⇒ 流通革命 ⇒ 生活革命
19世紀    20世紀    21世紀


私から観るに、今の社会は「活力無き精神の時代」です。「明日を逞しく生きる気概がなく、そのくせ自分の精神だけに固執する」、そんな人々のなんと多いことか。「わがままな生活者」が充満する社会です。技術に喩えれば、情報技術ばかり発達し、肝心のエネルギー技術が革新しないバランスの悪い時代です。
「21世紀社会を活性化させるための活力の技術革新が必要である」

活力と精神が融合し合い、創造性と感性に富んだ生活革命を起こすことが21世紀の課題です。そうしなければこの地球社会はもたないでしょう。生活革命はインターネットという情報次元技術だけでは実現できません。人間の精神面、活力面を見る限り、インターネットはむしろ有害に作用しているようにすら見受けられます。情報ファシズムを進め、多様性と連続性を阻害しています。コラムの最初の述べた「ワイドニング」と「ディーピング」に係わる問題です。

技術が実態を与える

技術は「環境という対象から、有用な実態を作り上げる能力」です。技術について、面白いお話をしましょう。宮大工の技についての話です。
神社仏閣をつくる宮大工に3つの匠の技を持っていること、ご存知ですか?

平安時代や鎌倉時代の宮大工は、神社仏閣を造るために、建立する場所近くの山を一山を買ったそうです。建立する建物に同じ環境の木材を使うためです。建物を山に見立て、山に育つ木々の場所や性質の違いを巧みに利用しました。北側の柱は、山の北側に育つ木材が適しているといったように...。
宮大工は、素材から建築物という実態=カタチを造るために3つの匠の技を使いました。
1つ目はカタチの「タチ」です。「あいつは性質(タチ)が悪い」のタチです。物の性状を意味します。宮大工は木材の性状(タチ)を見極め、建築物に活かす技を持っていました。「技術革新の環」の物質技術に該当します。
2つ目はカタチの「カタ」です。カタとは様式やスタイルを意味します。歌舞伎や芝居の世界で「あの役者は形(カタ)が良い」のカタです。様式はファッションと同じように情報の概念です。当時の宮大工の世界には和様式や唐様式、禅宗様式など様々な建築様式がありました。「技術革新の環」の情報技術に該当します。
3つ目はカタチの「チ」です。建物に魂を入れ込む技です。対象の本質を見極め、本質を引き出す技と言いかえることができます。作家である宮大工の血(チ)にも喩えられます。私はこれを「カチ」と呼んでいます。「技術革新の環」のエネルギー技術に該当します。 宮大工は「タチ」「カタ」「カチ」の3つの匠の技を使って、建物という実態(カタチ)を造ったのです。この宮大工の3つの技は「技術革新の環」にぴたりと当てはまります。

では「カチ」に該当する21世紀のエネルギー技術とは具体的には何でしょう?私は15年前、その技術に次ぎの名前をつけました。

インターコード「Intercode」
インターネットは情報次元の技術です。インターネットは「カタ」を作ります。インターコードはエネルギー次元の「カチ」を作ります。この2つの技術が革新的に融合すると、21世紀社会に生活革命が起こります。次回、詳しくお話します!

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