目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第26回 シングルス市場の真実 ~パート1~

今回から4回にわたりシングルス市場の実態について、毎週お伝えします。弊社は昨年の11月からシングルス世帯(独り暮らし)を対象に、食MAP収集システムを本格稼動しました。毎日買ってきた食品(JANコード)が、いつ、どのようなメニューとして食卓に登場しているかを365日収集するシステムです。さらに、これまでの食MAPシステムでは出来なかった新しい調査項目も追加されています。例えば、1000種類の外食メニューが業態別に調査されています。弊社が独自に開発した生鮮食品コード、惣菜コードから、セブンイレブンで買ったおにぎりや弁当、ジャスコで買った人参やまぐろが食卓でどう使われたかが判ります。極めつけは使用した食品について「その商品をもう1度買いたい?」「もう買いたくない?」を使用済み後に、毎回質問しています。その結果、食MAP版ミュシュランとも言える「再購入意向率」が計算できます。因みに、全食品の「また買いたい」と答えた割合は平均で何割だと思いますか(11月、 12月の結果)?

答え 僅か20%です。

1回目は皆さんが描いているシングルスのイメージと実態が如何に違うかについてお話します。ここを間違うと、どんな努力をしても報われません。なお1回目はシングルス食MAPに先立ち、2003年と2006年に実施したシングルス食生活日記調査(年4回調査)結果を使います。この調査結果は調査リポートとして販売しています。シングルスの知られざる実態が如実に報告されている貴重な調査リポートです。シングルス市場にご関心のある方は是非、購入をお勧めします。詳細は弊社食MAPラボをごらん下さい。

①シングルスは若者ではない
今から20年前の1985年、全世帯に占める夫婦と子供からなる世帯の割合は40%を超えていました。当時の食品企業は、夫婦と子供からなる核家族世帯をターゲットにすれば良かったわけです。2000年、核家族世帯の割合は32%に落ちこみました。2010年にはさらに落ちこみ28%になる予測です。一方、シングルス世帯割合は2000年29%でしたが、2010年には31%と核家族世帯割合を抜きます。これからの市場の主役は核家族世帯ではありません。シングルス世帯が市場の主役なのです。大都市圏のシングルス世帯の割合は既に4割に達しています。

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20年前(1985年)のシングルス男性は、30歳未満が5割を占めていました。39歳
以下が7割以上を占めていました。当時、シングルスの常識は「若い男性」でした。現在(2005年)、シングルス男性の5割が40歳以上で占められています。女性に関しては5割が60歳以上です。「シングルス=若い人」は完全に認識違いです。
1985年から2005年にかけて40代以上の未婚シングルス世帯が増加しています。特に男性50代未婚者の割合が1985年24%から2005年 43%へと急増しています。生涯結婚しない人が増えることが予想されます。生涯結婚しないシングルスのライフスタイルは、結婚前の若いシングルスのライフスタイルとは大きく異なります。もちろん家族を形成している同世代とも大きく異なります。自分の健康や自分の生活を自分で守っていかなければならない人がシングルスです。食事を作る人と食べる人が同じがシングルスです。これまでの誰も経験したことのない生活スタイルの消費者が登場しています。

②消費者行動論の見直しが求められている
今回の調査で明らかになったことですが、シングルスは本来料理好きが多いです。シングルス女性が「料理上手」と答えた割合は主婦以上です。環境さえ整えばシングルスは手作りをするのです。逆に言えば調理に興味があっても、調理技術があっても環境が整わなければ食事を作らないのがシングルスです。
本シリーズの第16回「消費者行動の謎解き」で、「消費者の行動は2つの要因の掛け算で決まる」というお話をしました。
●欲求や動機、ニーズ
●欲求を満たすための環境

消費者行動の因数分解式
消費者行動=ニーズ×環境

これまでのマーケティングは、消費者の「ニーズの発見」に重点が置かれていました。「環境」は消費者の努力に頼り、マーケティング活動の外にありました。たとえば食品スーパーは「主婦が買い物のために店にまで来てくれる」の大前提があって成立するビジネスです。この大前提が崩れるとイトーヨーカ堂でもジャスコでも一夜にして店じまいです。
シングルス市場では、2つの意味で「環境の創造」が重要になります。
●食の壁を破るミールソリューション・マーケティングの開始
●潜在化するニーズを健在化させるインセンティブ・マーケティングの開始
●食の壁を破る「ミールソリューション・マーケティング」
短期的に消費者行動を考える際は、ニーズは促進条件として働き、環境は阻害条件として働きます。4畳半の狭いアパートに住んでいる消費者が、たとえ400 リットルの大型冷蔵庫が欲しくても買いづらいです。4畳半の狭いアパートという環境が制約条件になるからです。大きな家に住んでいる消費者が400リットルの大型冷蔵庫を購入するか否かは、欲しいかどうかの消費者ニーズにかかっています。シングルスの食生活にはさまざまな「食の壁」が立ちはだかっているのです。食の壁を取り払う「ミールソリューション・マーケティング」が重要になります。
●潜在化するニーズを健在化させる「気付きマーケティング」を実施する
長期的に消費者行動を考える際は、環境は促進条件として働きます。インターネットという新しい情報技術環境の誕生が、音楽配信サービスやホテル予約サービス、インターネット・オークションなど、様々な新市場を作り上げています。医療制度の規制緩和という環境変化が、介護サービスや給食サービスという新市場を成長させています。新しい環境創造は、それまで眠っていた消費者ニーズを顕在化させます。環境への関心が、エコ市場という新しい市場を誕生させているのがその良い例です。潜在化した市場では、マーケティングの力点を「ニーズ発見型」から「環境創造型」にシフトする必要があります。

③内食回帰するシングルス
今回のシングルス食MAPに先立ち、シングルスの自宅での喫食率を2003年と2006年で比較した結果、注目すべき事実が判明しました。自宅で食事をするシングルスが増えています。内食回帰現象は朝食、昼食、夕食の全ての食事機会で起きています。以下、朝食について簡単に結果をまとめてみました。
●2006年シングルスの自宅の朝食喫食率は女性60.6%、男性49.9%と予想以上に高い。2006年の朝食を職業別に見ると女性の勤め人の家庭内食率が63.0%と高い。
●自宅での朝食の喫食率が2003年から2006年にかけて顕著に高まっている。
●自宅で朝食の喫食率が高まる一方、朝食を食べないシングルスが減少している。
●朝食の外食率が減少している。特に男性シングルスの減少幅が大きい。

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資料 2003年調査より

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資料 2006年調査より

④「シングルスの食は乱れている」は大きな誤解
これまでシングルスの食実態はほとんど知られていませんでした。その一方で、シングルスに関する食事情が刺激な内容で、まことしやかに世間に流布しています。「シングルスの多くが包丁を持っていない」「ほとんど毎日、外食したり惣菜や弁当で食事をすます」「毎日の様に朝食を抜いている」等々。こうした情報は、ほとんどがなんの根拠もない週刊誌的ゴシップです。シングルスの食実態を見誤ると、どんなマーケティング努力をしても暗闇に石つぶてを投げる様です。当たるわけがありません。1つの例を紹介します。シングルスの手作りは想像以上に活発なのです。

■朝に味噌汁を食べている機会の割合は?どう作っている?
(答え)シングルス 9.6%、主婦 20.0%の登場
→シングルス世帯は家族世帯の半分の確率で朝食に味噌汁が出ている
(答え) インスタント味噌汁 21.3%、カップ味噌汁 0.4%、味噌を使い手作り 64.1%

■スパゲッティはシングルスの夕食によく登場するメニュー。どう作っている?
(答え) 惣菜 6.2%、乾燥スパゲッティ 65.0%、茹でパスタ 13.6%
→乾燥スパゲッティで手作りする際、エキストラバージンオイルやスパイスにこだわっている

■夕食の焼き魚はどう作っている?
(答え) 鮮魚 68.9%、干物・塩鮭・味噌漬けなど加工魚 24.0%、惣菜 6.5%
→鮮魚担当者はこの事実をどこまで認識してるのでしょうか?

■夕食のラーメンはどう作っている?
(答え)袋インスタントラーメン 30.8%、カップラーメン 35.8%、生ラーメン 16.9%、冷凍ラーメン 3.0%

■夕食のカレーはどう作っている?
(答え)レトルトカレー 42.8%、カレールゥ 29.5%

■揚げ物料理の代表であるコロッケの夕食はどう作っている?
(答え)惣菜 71.8%、冷凍 17.1%、パン粉を使って手づくり 2.1%

皆さんは今まで、シングルス市場のイメージを勝手に作っていませんでしたか?もしそうだったら、先にも言ったように「暗闇に石つぶての様」になります。
「思い込み」と「思い入れ」は全く意味が異なります。なんの事実の裏づけも無い自分勝手な思いを「思い込み」と言います。たとえわずかな事実でも、その事実を客観的に科学し、それに自分の思い(情熱)を重ねることを「思い入れ」と言います。シングルス市場のマーケティングは、これまで「思い込みのマーケティング」でした。今、必要なのは「思い入れのマーケティング」です。
次回から、シングルス食MAPを使って、みなさんがこれまで見たことも無い「未知の市場大陸」にご案内します。

追伸
来る1月28日(水)と2月24日(火)にシングルス食MAPに関するセミナーを開催します。豊富なデータをもとに、これまで全くの未知だったシングルス市場の全貌が明らかになります。詳細は こちら をご覧下さい。

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