目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第25回 東西食卓合戦

昨年、弊社で食卓の東西比較研究会を実施しました。その際、貴重な発見をしました。今回はそれが話題です。
弊社は昨年(2007年)の11月の1ヶ月間、食生活日記調査『有配偶者世帯(女性20~59歳:延べ12000サンプル)×2地域(東京圏(東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県)、京阪神(大阪府,京都府,兵庫県))を実施しました。さっそく質問です。

質問1 次の主食料理は関東と関西のどちらの食卓によく登場するでしょうか?
カレー、チャーハン、トースト、うどん、そば、スパゲッティ、ラーメン、お好み焼き

答え カレー(関東÷関西=1.1倍)、チャーハン(0.9倍)、トースト(0.9倍)、お好み焼き(0.5倍)、うどん(0.8倍)、そば(1.2倍)、スパゲッティ(1.3倍)、ラーメン(1.0倍)

関東に軍配があがるのはカレーとそば、スパゲッティのみです。関西に軍配があがるのはチャーハン、トースト、お好み焼き、うどんです。ラーメンは勝負なし。ラーメンは東西の違いを超えた国民的人気料理といえます。

質問2 次のおかず料理は関東と関西のどちらの食卓によく登場するでしょうか?
おでん、水炊き、寄せ鍋、すき焼き、天婦羅、コロッケ、焼肉、納豆、佃煮、和風漬物

答え おでん(0.6倍)、水炊き(0.5倍)、寄せ鍋(0.6倍)、すき焼き(0.8倍)、天婦羅(0.8倍)、コロッケ(0.8倍)、焼肉(0.9倍)、納豆(1.8倍)、佃煮(1.1倍)、和風漬物(1.3倍)

鍋料理は圧倒的に関西の勝ちです。天婦羅、コロッケ、焼肉も関西に軍配が上がります。納豆、佃煮、漬物といった副菜で、ようやく関東に軍配が上がります。関東の食卓のほうが質素のようです。因みに味噌汁は関東が関西の1.3倍です。吸い物・すまし汁は0.7倍です。「味噌汁は質素な料理」とはいいませんが、関東の食卓風景を象徴しているようです。食卓の華、アルコールはどうでしょう?

答え 日本酒(0.7倍)、ビール(0.8倍)、焼酎(0.8倍)、ワイン(1.4倍)梅酒(1.1倍)

昔から親しまれているアルコールは関西に軍配があがり、現代女性が好みそうなワインや梅酒は関東に軍配があがります。上方女と東女の主張力の違いでしょうか?
ここで話題を食材に移してみましょう。関東と関西の嗜好の違いが話題になるとき、同じ料理でも、調味の仕方や使われる食材が違うことがよく言われます。例えば関西で商売をしている食品スーパーのバイヤーさんに言わせると「豚肉の入ったカレーライスなんか食べない。関西はビーフカレーだ!」「関西人マグロの刺身なんて食べない。刺身はハマチやブリを好む」
そこで東西の食卓によってカレーライスに入る肉がどう異なるか調べました。質問です。

質問 次の精肉がカレーライスに入る割合は東西のどちらに多いでしょう?
牛の角切り肉、牛の薄切り肉、豚のこま切れ肉、鶏もも肉

答え 牛の角切り肉(関東が関西の0.5倍)、牛の薄切り肉(0.3倍)、豚のこま切れ肉(2.3倍)、鶏もも肉(1.1倍)

やはり噂通り「関西は牛肉、関東は豚肉」でした。ここまでのクイズでしたら「やっぱりそうか」で終わります。しかしこのクイズは終わりません。この東西比較で、これまで誰も知らなかった事実が判ったのです。なんでしょう?

答え 関東も関西も、若い主婦の食卓ほど豚肉のカレーライスがよく登場する

これって大発見です! 豚肉は野菜との相性が良く、かつ経済的です。そんな豚肉の人気が東西という地域差を超えて若い世代のトレンドになっています。同じ傾向が肉じゃがでも見られます。

東西の食材の違いをおでんの中身で見てみましょう。質問です。

質問 次の食材がおでんに使われる割合は関東と関西のどちらで高いでしょう?
大根、じゃがいも、こんにゃく、厚揚げ、がんもどき、しらたき・糸こんにゃく、昆布、牛スジ、鶏卵、さつま揚げ、焼きちくわ、はんぺん、魚のすり身加工品、

答え 大根(0.9倍)、じゃがいも(0.6倍)、こんにゃく(0.6倍)、厚揚げ(0.4倍)、がんもどき(1.2倍)、しらたき・糸こんにゃく(1.1倍)、昆布(2.2倍)、牛スジ(0.2倍)、鶏卵(0.9倍)、さつま揚げ(1.5倍)、焼きちくわ(1.0倍)、はんぺん(2.5倍)、魚のすり身加工品(1.8倍)

関東のおでんは練り物中心になっています。関西のおでんは野菜中心です。そして忘れてならないのが関西の牛スジです。昆布は関東に軍配が上がります。
調味の仕方にも違いがあります。関東はおでん用のタレツユが関西の1.2倍使われています。一方関西はダシの素が関東の2.8倍、薄口醤油が2.7倍使われています。この違いの意味って、判りますよね!

東西の比較をしていて、ある重要な事実に気が付きました。
料理には色々な種類の食材が使われます。最後の質問です。

質問 次の料理のうち、使われた食材の種類数が、関西に比べ関東のほうが多い料理はどれでしょう?
炊き込みご飯、手巻き寿司、ちらし寿司、カレーライス、うどん、ラーメン、おでん、水たき、寄せ鍋、すき焼き、しゃぶしゃぶ

答え カレーライス、うどん、ラーメン

関東のほうが多くの種類の食材を使う料理は、たった3品だけです。それもカレーライス、うどん、ラーメンといった、どちらかといえば食卓を簡単にする料理です。食卓をにぎわす寿司や鍋料理は、関西のほうがたくさんの種類の食材を使っています。関西はそれだけ、色々な種類の食材のバリエーションで料理を楽しんでいるようです。食材のバリエーションの豊かさは、食卓文化の深さに関係します。
昔から言われている「文化は上方から江戸に下る」は、今の私たちの食卓に息づいています。私はこの事実から次の格言を思いつきました。

「西の食を知って東で売れ」

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