目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第24回 フレーミング効果を破る ~新しい市場は既に存在している

5回目の「食卓造景学」で「風景は観念のフレーム」などと難しいお話をしたことをご記憶ですか?
この観念のフレームが、私たちのものの見方の妨げになることがあります。私たちはどうしても固定観念で物事を理解しがちです。これを「フレーミング効果」といいます。次の2問にお答えください。

注)この質問は「思考の整理学」(外山 滋比古:ちくま文庫)から拝借しました。

問題1
図の左側9つの点を重ならないで4本の線で一筆書きをしてください

問題2
図の右側のボックスは傾いていますか?真直ぐですか?

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答え1
9つの点で囲まれる空間で一筆書きをするとどうしても5本以上の線
になります。しかし、次図のように大きな空間(フレーム)で一筆書
きすれば4本で結べます。狭い視野でなく大きな視野のフレームが
大切なことを示しています。

答え2
右図のボックスを見ると誰もが傾いていると感じます。皆さんが見て
いる画面の枠を基準に見るからです。しかし次図のように、もう一つ
の枠を描くとその枠を基準に見ることで、図はまっすぐに位置してい
るように感じます。新しいフレームを持つと観察対象の見え方が変わ
ることを示しています。

このように観念のフレーム変えると、新たな物の価値や行動の意味を発見することができるのです。

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このフレーミング効果の事例を食MAPでご紹介しましょう。
そこで問題です。
「家庭でチーズを食べる一番の機会はいつですか?」

答え 「朝食」

「え~?嘘!」のように思われた方々が多いでしょう。納得した方も案外に多いのではないでしょうか。
「夕食」と答えた方はチーズを作り手のフレームで見ています。メーカーは「チーズはビールやワインのおつまみ」と考えているからです。実際、2年前の夏、大手ビールメーカーが「カマン・ビール」と洒落て、カマンベール・チーズとビールのコラボ提案の宣伝をしていました。チーズ・メーカーもビールメーカーもチーズは夕食市場の商品と考えています。この固定観念(フレーミング効果)が問題なのです。

生産者(モノ)とは違ったフレームでチーズを見ると、全く別なチーズの市場が見えてきます。どんな市場が見えるのでしょうか?
話は少し横道にそれます。

「消費者のニーズが見えない」
「消費者のニーズは、もはや開発しつくされた」
両極端な2つの意見が、まるで同じ事柄のように言われています。どちらも画期的な商品がだせない企業の言い訳になっています。しかし本当でしょうか?
私の仮説では
「消費者のニーズの多くは解明されていません」。
「何故?」
消費者自身も気付かないニーズや市場が存在し、誕生しているからです。いささか逆説的表現ですが、次のことが言えます。
「新しい市場は既に存在している」

市場は「ヒト」と「コト」と「モノ」の3つの要素で構成されています。「ヒト」「コト」「モノ」はそれぞれ独立しています。幾何学でいうX軸、Y軸、Z軸です。市場の本質を見極めるためには3つの次元から市場を見る必要があります。「チーズは夕食」と答えた方は「モノ」次元からチーズを眺めているわけです。
話がさらに横道にそれます。

建築家は建物の本質を捉えるための技術を沢山もっています。その一つが正面図と平面図と側面図で建物を描く技術です。建築家は3次元の図面から建物の本質を捉えます。正面図を何枚重ねても建物の正面しか見えてきません。建物を3次元で構造化すると全部見えます。
市場も建物と同じです。これを「市場の構造化」といいます。新しい市場を発見するコツは建築図面のように、異なった次元の情報で市場を構造化することです。

図は、先に述べたチーズ市場の情報を構造化した概念図です。正面図であるモノ次元しか見ないマーケターは、チーズは夕食卓のワインのおつまみだと思っています。ところがコト次元である側面図を見たマーケターは、おつまみチーズ市場の背後にモーニング・チーズという新しい市場があることを発見します。さらにヒト次元である平面図を見るとエルダー女性という新しい市場があることを発見します。

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(参考)
図によると、チーズが食べられた食卓のうちで夕食に出現した割合は3割そこそこです。チーズの5割前後が朝食で食べられています。おつまみチーズも夕食33.4%に対して朝食35.7%と、朝食が多いのです。

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朝食のチーズの食べ方についてもう少し実態を探ってみますと、チーズと食卓の間に新しい文脈が見えてきます。チーズが登場する朝の食卓とチーズが登場しない朝の食卓では、食卓に並ぶメニューや家族の囲み方が大きく異なることがわかりました。朝のチーズが出る食卓では、従来の一汁三菜的な献立構造が崩れ、主食離れした「主婦の個食スタイル」が現れます。私はこの朝食スタイルを「おめざ」と呼んでいます。中高年主婦を中心に「おめざ」という新しい朝食スタイルが誕生しています。「新しい朝食スタイルの誕生」は「新しい市場の誕生」と同義語です。「モーニング・チーズ」という新しい市場が誕生していると解釈できます。
新しい市場は、かつてコロンブスによって発見されたアメリカ新大陸に喩えられます。アメリカ新大陸は太古の昔から地球上に存在していました。にもかかわらずコロンブスに発見されるまで、ヨーロッパ人には、その存在が知られていなかっただけなのです。
新しい市場は既に存在しているのです。存在していますが、隠れて見えないのです。新しい市場は我々に「早く発見してくれ!早く開拓してくれ!」と叫んでいます。新たな観察フレームをもち、新大陸を発見し、新大陸の市場開拓をするのがマーケターの役割です。

追伸
「モーニング・チーズ」は日本人の新しい朝食スタイルを形成する可能性があります。私の知る限り、朝食にチーズを食べる習慣がある国は世界中探しても日本ぐらいです。話は少しそれますが、朝食にインスタント・スープを飲む習慣を持つ国も世界では少ないです。では何故に日本人は朝食にインスタント・スープを飲むのでしょうか?
「昔から朝食に味噌汁をのむ習慣があったからだ」が私の仮説です。朝食にインスタント・スープを飲む習慣は、朝食に味噌汁を飲むという日本の食文化を受け継いでいるのです。「おめざ」は池波正太郎の時代小説~鬼平犯科帳や剣客商売にも登場する江戸時代の食習慣です。寝起きの悪い子供の口に甘いものをぽんと食べさすと目がパッチリ。これがお目ざです。モーニング・チーズも新しい朝食文化(市場)をつくる可能性を秘めています。

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