目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第23回 ニッポンの食文化を創る名バッテリー

酒と料理は野球のピッチャーとキャッチャーの間柄(バッテリー)にたとえられます。数年前、酒と料理の間柄について思白い体験をしました。岡山に所用に出かけた際の小さな小料理屋での思い出話です。

10月も終わりの肌寒い日。夕刻、当地につくなり、岡山市内の宿泊するホテルのフロントで「手ごろな値段で、酒と肴が美味い店が近くにないか」と聞き出しました。聞き出した店はホテルから歩いて10分足らず。期待に胸を弾ませて暖簾をくぐり、店内を拝見。
カウンター席と小上がりの座敷席がある、なんの変哲もない店作り。15人もいればいっぱいになりそうな小体な店である。ただカウンターの奥の壁一面に鎮座している巨大な酒クーラーにはちょっと驚かされた。巨大な酒クーラーの中には全国の銘酒らしき酒がスラリと並んでいる。外は寒いし、街は暗くて不案内だ。暖簾越しに覗きこんでいた私は...『ここに決めた』。
店にいると、それまで小上がりのテーブルでお喋りをしていた1組のカップルが、入れ替わる様にして店を出ていった。店の客は私を含めて2人だけになる。さっきまでの店内の賑やいだ空気がシンとする。私が座ったカウンター席の2つ横に座っているサラリーマン風の客は、何やらぶつぶつ言いながら、それでも小鍋の河豚チリを旨そうにつついている。中身の河豚は下関産だろうか...? 店は穏やかな雰囲気である。旅の寒さを紛らわすには打ってつけの店だと感じた。
店主は山陰地方の農家の生まれらしい。若いころに単身、岡山に上京し店を出し、現在に至ったとボソリとしゃべる。
「子供も巣立ち、今では夫婦2人で気楽に店をやっているんですよ」
店主の横で何やら煮こんでいる小柄な女房が口をはさんだ。

巨大クーラーの中に入っているたくさんの種類の酒は、全て店主が当地まで出かけ、自ら吟味した酒らしい。店の奥の壁にかかっている黒板~本日のお勧めお品書~に目を走らせる。日本海で獲れたやりいかの刺身がうまそうだ。『酒は何にするか?』と、クーラーの中を見やる。少々酒にうるさい私でも知らない銘柄が多い。わずかに知っている銘柄もあるが、それでは面白くない。知らない旨い酒が飲みたい。ただあれこれ聞くのは面倒だ。
「おやじさん。お品書きにかいてある日本海産のやりいかの刺身をくれ。それと、やりいかに合う酒を見つくろってくれ」
おやじさん、おもむろに3本の1升瓶をとりだす。そして夫婦で何やら相談事を始める。そのうち女房の方が利き酒をはじめる。また何やらボソボソと相談事だ。2人が向き合い、うなずく。とうとう酒が出た。知らない酒だ。島根の銘酒らしい。口に含むとサラリと旨い。
日本海産のやりいかの刺身が出た。酒がさらに旨くなる。いや、いかの刺身が旨くなる。喰い意地のはった目は、再びお勧め品書きの黒板を嘗め回す。
「おやじさん、牡蠣は広島かい?」
「いいえ、宮城です」
「それじゃ牡蠣をくれ。牡蠣にあう酒はどれかな」
また3本の1升瓶が取り出された。今度は店主が利き酒をする。二人うなずく。宮城の酒が出た。これなら私も知っている銘酒だ。宮城の酒と宮城の牡蠣の相性は格別である。

いよいよ、先から気になっているカサゴの番だ。
「おやじさん、カサゴはどこの産だ」
「地のものです」
「刺身にできるかい?」
「へい」
「それじゃ頼む。ついでにカサゴのさしみに合う酒をくれ」
まず酒がでた、お馴染みの広島の銘酒である。とうとう質問だ。
「おやじさん、なんで肴に合う酒がわかるんだい」
私の質問を聞いた小柄な店主は、こともなげに言ってのけた。

「当然ですお客さん。もともと各地にはたくさんの造り酒屋があったのです。それが今では、多くが無くなりました。生き残った酒屋はみんな地元の料理と相性が良いのです。地元の料理と相性の良い酒だけが生き残れたのです。ですから私は地元の料理には地元の酒が一番だと思っています。ただお客さんの好みもあるので、利き酒をしているのですよ」
そういえば私はカウンター席につくなり、店主に自分の酒の好みをひとくさり口上したのだった。全てが腑に落ちた。

ここで問題です。
にぎり寿司、チラシ寿司、鰻丼、お好み焼き、ピザの中で日本酒と一番相性が良い(食卓に同時に出現する割合が高い)料理はどれでしょう?

答え 鰻丼

「え~、うそー! にぎり寿司やチラシ寿司ではないの?」と思った諸君は残念でした。
次ぎの問題です。にぎり寿司、チラシ寿司と一番相性が良いお酒は何ですか?

答え 白ワイン

さらに質問です。お好み焼き、ピザと一番相性が良いお酒は何ですか?

答え お好み焼きはビール、ピザは赤ワイン

最後の質問です。刺身、冷奴、和風鍋、天ぷら、煮魚と一番相性が良いお酒は何ですか?

答え 日本酒

ニッポンの食文化を創る名バッテリーが誕生することを願っています。

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