目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第22回 手作りって何? ~未来の惣菜産業に戻れ

大手食品メーカーの食品の多くが美味しさを犠牲にしています。あるいは味や品質の向上以外の部分に余分なコストをかけ過ぎています。これまでの食品はそれでも良かったでしょう。しかしそんなことでは消費者になんのアピールもできません。消費者の消費スタイルに合わせたパフォーマンスの高い食品を提供する技術開発が大きな課題に上っています。
パフォーマンスの高い食品を提供する技術は、これまでの大手食品メーカーの大量生産技術とは異なったシステム技術を要求します。単品大量生産の大手食品メーカーが不得手な技術です。
現在の加工食品や加工調味料、あるいは惣菜に至るまでの食品のほとんどは、省力化か、精々、合理化に対応した単品大量生産の食品です。調理の省力化と合理化は、消費者がかけるコストとしてのインプットを少なくできますが肝心のアウトプット(効果、満足)のレベルが下がったり、上がらないという致命的な問題があります。

ある技術研究会の出来事です。講師陣は大手食品メーカーの研究所の所長や技術担当役員など著名な方達です。講師陣の講演の後、会場からいくつか質問がありました。一人の質問者に対する返答に講師陣が窮したのです。質問者は都内の中小米果メーカーの若い技術者でした。
「最近、手作りということが重要だといわれています。しかし我々は大量生産するために手作りの煎餅を作ることができません。先生方は、食品メーカーにおける手作りをどのように考えているのですか」
そんな風な質問でした。数人の講師陣がしぶしぶ答えました。
「原料の練り具合をどの様な状態にすれば手作りに近づくか、プロの職人の手作り技術をいかにコンピュータ技術でコントロールするか」...そんな答えでした。

聞いている参加者たちには良く分かりません。あまりに専門的に過ぎるからです。同時に、それが『本当の手作りなのか?』という疑問が参加者たちには生じていました。すぐさま、会場の1人から異議申し立てが起こりました。異議を唱えたのはフランス菓子のパティシエで有名な人物でした。
「先生方がおっしゃっている手作りは、単なる手作り風工業技術でしかありません。手作りとはそんなものではありません。私が考える手作りとは、例えばレストランに急に400人の客がくることになり、400人のためにデザートのケーキを作らなければならなくなったとしましょう。既成品を購入すれば事たりますが、それでは手作りケーキとはいえません。だからといって、顧客それぞれの好みに合わせケーキを手作りしていたのでは、間に合いません。
ケーキの胴は何種類かの既製品を仕入れましょう。クリームやチョコレートの原材料は、それぞれの原料を得意とするメーカーの製品を仕入れましょう。トッピングは新鮮な果物を仕入れましょう。そしてクリームの仕上げだけは、私自身のレシピでこだわって手作りしましょう。そして最後に、どの胴にはどのクリームが合うかどの果物が合うかがプロの腕で見せ所です。これが手作りです」
会場から拍手が上がりました。これこそ「手作りの知恵」であり、食品メーカーが学ぶべき「パフォーマンス化技術」です。

食品のパフォーマンス化技術は、新鮮な美味しさや手作りの美味しさを実現する技術と、採り立て・作りたての質を提供する技術の2つで構成されます。
新鮮な美味しさ・手作りの美味しさを実現する技術には、真空調理法や無菌充填などの中間技術やキット技術(=パーツ×アッセンブリー)などの編集・加工技術が必要です。最近、品質向上が著しいレトルト食品や冷凍食品も中間技術として十分に使えます。
今、アメリカの中食業界で話題になっているスーパー・サパーズや食事準備(ミール・アッセンブリー)業は、キット技術(=パーツ×アッセンブリー)の惣菜バージョンです。このミール・アッセンブリー業は、アメリカの惣菜市場の10%シェアを占めるといわれています。ただアメリカのミール・アッセンブリー業には「手作りの知恵」が強く感じられません。「手作りの知恵」をもったミール・アッセンブリー事業が日本の惣菜市場を震撼させるかもしれません。
採り立て・作りたての質を提供する技術には、川上から店までの製造・流通システム技術と、バックヤード(厨房)から店先(客先)までのフード・システム技術が必要です。

以上の2つの技術を統合することで、パフォーマンスの高いフードサービス・ビジネスシステムが出来あがります。これを「フード・エンジニアリング・サービス」と呼んでいます。

「フード・エンジニアリング・サービス」は1社では無理です。多くの産地や食品関連企業のコラボレーションが必要になります。川上から川下までをインテグレ--トしたフード・エンジニアリング・サービスを完成させる企業が、新たな食品市場のマーケット・リーダーになるというのが私の長年の仮説です。「フード・エンジニアリング・サービス」は食品メーカーや食品流通業以外の分野から登場するかもしれません。

追伸
最近ある中食産業のトップから興味あるお話を聞きました。現在の惣菜や弁当は、安全性を追及するあまり、腐らない処置がいたる方法でされています。笑い話ですが「こうした惣菜を食べた人間は死んでも腐らない」そうです。こうした状況に対して、そのトップは全て基本に戻ることを目指し、ビジネス化を図っています。基本に戻る事業コンセプトは「腐る惣菜」です!
考えてみれば当たり前のことですね。これが未来の惣菜産業の姿です。

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