目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第12回 豆腐とパンツ

前回の質問は次の通りでした
『スターバックスの体験の価値の次ぎにくる顧客価値は何?』
お答えします
『Transformation(変換)です』

Transformationが、少子高齢社会の顧客価値の鍵を握っているとアメリカのコンサルタントは考えています。私も以下の時代仮説を持っています。
「豊かな暮らしに繋げられる商品が新しい顧客価値になる」

あるご婦人から聞いた話が参考になります。そのご婦人のご子息が都内の豆腐屋に就職しました。最近流行の引き売りの豆腐屋です。就職して間もない頃、ご婦人は久しぶりの親子2人のデートを楽しみました。そしてご子息から近況報告を受けました。彼は母親に自分の仕事の不安をもらしました。
「うちの豆腐は一丁300円もするんだよ。少し高すぎると思わない?」
数ヶ月がたったある日、再びご子息と会うことになり、また彼から近況報告を受けました。その際の彼の話に、彼女ははっとさせられたそうです。
「母さん、うちの300円の豆腐は決して高くないよ」と彼は切り出しました。

彼は世田谷辺りで豆腐の引き売りをしています。世田谷は高齢者が多い地域です。ある時一軒の家から「豆腐屋さん、豆腐屋さん」と、手招きする声が聞こえました。家の前まで行くと高齢のご婦人が「お豆腐一丁ください」と笑顔で言いました。
「毎度ありがとうございます」
するとご婦人がきまり悪そうに...
「ついでと言ったら悪いのですが玄関の電球が切れているの、とり替えてくれない?」
「いいですよ」
彼が玄関の電球を付け替えてあげると
「ありがとうね。豆腐また買うからね」
そんなことが近所で評判になり彼の豆腐は次第に売れ始めたらしいのです。ある日、同じように引き売りをしていると、近くから声がかかりました。
「豆腐屋さん、豆腐屋さん、豆腐一丁くださいな」
「毎度ありがとうございます」...と、
お客を見やると80歳過ぎの長身の老人が玄関を開けて家の中から手招きしています。玄関に入り豆腐を手渡そうとしたら...
「豆腐屋さん、悪いがズボンを脱がしてくれないか?」
彼は少し不審に思いました。でも気を取り直し老人のズボンを脱がせてあげました。すると
「パンツも脱がしてくれないか?」
青年はギョッとしました。
『母さん、ちょっと危ないと思ったよ』
それでも意を決して脱がしてあげました。すると...
「有難とうよ、歳をとると下着の着替えが難しくてね。また豆腐を買わせてもらうよ」
ご子息は母親に言いました。
「母さん、だから300円の豆腐は決して高くないと思うよ」

この体験談の意味は深いと思いませんか。消費者が欲求を生じる際には、必ず「きっかけ(=接点)」があります。そのきっかけは決して商品に対する欲求だけではないのです。商品を通じて、あるいは商品を買ったり使ったりする体験を通じて、自分の生活を豊かにしたいという欲求があるからです。
今の世の中「当たり前のことが当たり前にできること」の大切さをしみじみ感じます。お互いが繋がり合ったり、幸せな生活に導いてくれる商品を求める人々が増えています。そんな商品を「繋がり商品」と呼んでいます。繋がり商品は別に高齢者用の商品ばかりではありません。昨年の日経流通新聞のコラムにオラクルひと・しくみ研究所の方が次ぎのようなことを書いていました。

~あるお店に手作りの人形が置かれていました。この手作りの人形、なかなか売れません。そこで店主は一計をめぐらしました。人形を2体にして店に置きました。2体の人形は手作りなので顔かたちが微妙に違います。これを双子の人形として店に置いたのです。そこに双子の姉妹が訪れ、その人形を見て言いました。
「まあ、この人形私たちみたい」
双子は喜んでその人形を買い求めました。あるとき一人の老婦人が店に訪れ、双子の人形を見てすぐさま店主に言いました。
「私の初孫が双子なの、この人形を孫たちにプレゼントしたいのですが」
双子の人形は次第に売れるようになりました~

何故、こんなことが起きるのでしょうか?
手作り人形が店に並べられているならそこらにあるただの手作り人形です。誰も気も留めません。しかし双子の人形なら、双子にかかわる人から見れば自分に係わりのある人形です。
消費者は自分と何らかのかたちで係わっている商品に関心を示します。引き売り豆腐や双子の人形は「繋がり商品」なのです。

追伸
アメリカでは最近「weakties」(弱い絆)というキーワードに関心が集まっているようです。弱い絆が新しいコミュニティをつくる時代がやってきます。

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