目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第6回 日本の食卓は健全?~事実は一つ、真実は無限

top_column_6.jpg家庭の食に対する最近の風評は一言でいうと「崩壊する日本の食卓」です。1日3食をちゃんと食べない家庭の増加。家族ばらばら食卓の増加。手料理の衰退。親から子への料理伝承の途絶え。などなど...。
「日本の食卓崩壊の現象は挙げればきりがない」という専門家の方々はたくさんいらっしゃいます。これに追い討ちをかけるような事件が、最近、食卓を直撃しています。国内作物の危機的減少や輸入食品への不安、価格の上昇です。こうした事態からどうすれば脱却できるかが社会の最大関心事になっています。この事態打開に関連して、明るい話題を提供するのが今回のテーマです。

図をみてください。図は食MAPモニター(関東在住360世帯)さんの365日の食卓喫食率の8年間の結果です。確かに昼食の喫食率は低く、8年間一貫して低下しています。夫婦共稼ぎであったり、何かと外出の多い昼間はどうしても家で食事をとれない機会が増えるのは仕方がないことです。
夕食と朝食の喫食率も2000年から2003年までは減少しています。ところが2003年以降は増加に転じています。増加している理由のはっきりしたことは分かりませんが、食育や食事バランスガイドが家庭に浸透したことがひとつ考えられます。道路交通法の改正による飲酒運転の自重も少なからず影響しているでしょう。しかし、それ以上に家庭での食卓に対する私たちの意識の変化が影響しているように感じられます。

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図は家族全員がそろった夕食機会の変化です。家族が全員そろった食卓が2003年を底に回復してきています。家族そろった夕食機会の割合を主婦年齢別に見ると次の通りです。
(2007年1年間の夕食)

全体32.7%
20代41.6%
30代38.2%
40代32.3%
50代以上27.1%

若い世代の家庭ほど家族そろった夕食機会の割合が高いという結果がでています。20代主婦の家庭では1年間の家庭の夕食で家族全員がそろった食卓を囲んだ機会は41.6%です。若い世代の食の崩壊は進んでいません。むしろ回復しているといってよいでしょう。

次の図は弊社で行っているシングルス食MAP(関東在住のシングルスの食卓日記調査)の結果から、朝食と夕食の喫食スタイルの変化(2003年と2006年)を整理しています。
シングルスも自宅で食事を取る割合が増加しています。とりわけシングルス女性の朝食の自宅での喫食率が8%も増加しています。しかも若い世代ほど自宅喫食率の増加が顕著です。シングルスは男女を問わず自宅で朝食を食べるようになっています。
「一人暮らしやヤングは朝食を食べなくなっている」が、世間ではまことしやかに流布していますが、実態は逆です。「何故?」と疑問に感じる方も多いでしょう。その疑問に答えるヒントの言葉を発見しました。

「私の生き甲斐は、毎日を健康に暮らすことです」
これはシングルス食MAPの「私の生きがい」という質問の自由回答の中でで、40代のシングルス女性が書き綴った言葉です。
少し前まで「一人暮らしは結婚するまでの一里塚」が世間の相場でした。だから、少々乱れた一人暮らしをしても、いずれ家庭を持ち、家族をもつと健全な生活に戻れるといわれていました。しかし、今のシングルスは、生涯独りで暮らす人々が増えています。そんな時、健康こそが生き甲斐と感ずるのは当然のことです。

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かつて健康は生き甲斐のための手段のように考えられていました。今の時代は、毎日を健康に暮らすこと自体が生きがいになるのです。私はこれを「普段使いのライフスタイル」と言っています。昔のような高邁なライフスタイル(人生の目標)ではなく、日常生活に根ざしたライフスタイルという意味です。
「普段使いのライフスタイル」に気づいた人々から、食の見直しが起きるでしょう。国や偉い学者は食育だ、栄養バランスガイドだと騒いでいますが、消費者はいち早く食の大切さを肌で感じ取り、すでに防衛体制に入り、自分達の食生活の再構築を始めています。

次の数字はなんの数字だと思いますか?

2003年2004年2005年2006年2007年
A17.0%12.2%9.0%10.0%6.6%
B14.2%10.0%7.0%8.1%5.4%
C8.8%6.7%4.2%2.0%4.2%
答えA 塩辛(びん、パック入り) B ホイップクリーム
C 市販のフレンチドレッシング(クリームタイプ)
の家庭での廃棄率の推移

食MAPはJANコードの付いている食品の在庫分析ができます。在庫分析をすると家庭で廃棄された食品の割合がわかります。上記の数字はその結果です。家庭の廃棄率は多くの食品で減少しています。最近話題になっている「もったいない」は確実に家庭に浸透しています。食卓は健全さを取り戻しているのです。これまで誰も知らなかった事実です。
「目からうろこが落ちましたか?」

追伸
食生活が健全さを取り戻すためには、過去の古い歴史や文化を守るだけでなく、新しい歴史や文化を作ることが大切です。例えば朝食に菓子パンやお菓子など甘いものが登場している事実を、食文化の崩壊と嘆く専門家の方々がいます。しかし新しい食文化の誕生として迎え入れることができます。日本の食文化には「おめざ」という江戸時代にあったといわれている習慣(寝起きでむずがる子供の口に、甘いものぽんと入れると目がぱっちり)があった歴史に照らし合わせるのです。そうすると日本の朝食に古い文化と新しい食事スタイルが融合した、新たな食文化が誕生しているという真実に出会います。目の前で起きている事実は一つでも、その事実を前向きでとらえるか、後ろ向きでとらえるかで、未来という真実は大きく変わります。一つ格言ができました。
「事実は一つ、真実は無限」

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