目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第3回 百鼠(ひゃくねずみ)の心

top_column_3.jpg2回目で、食材の特質を活かした調理の大切さをお話しました。食材の特質を活かす大切な調理に調味があります。今回は調味のお話をします。
うまみ調味料(味の素、ハイミーなど)については賛否両論です。筆者の周りには食のプロが沢山います。そうした達人たちのほとんどが、うまみ調味料を良く云いません。今、うまみ調味料は不利な立場に立たされています。でも本当にそうでしょうか?

ここで問題です。
うまみ調味料を1年間に1回以上使った家庭は何割でしょう?
答え 44%(2006年1年間の食MAPデータより)

「え~?嘘!」のように思われた方々が多いのではないでしょうか。うまみ調味料を使った家庭では、1年間に平均52回使っています。ちょうど1週間に1回の割合です。当然、もっと使っている家庭がたくさんいます。食の達人たちからすると驚きの結果です。うまみ調味料は食卓で結構活躍しています。

次の質問です。
食MAPのメニュー分類には調理を必要とするメニューが720種類登録されています。その内、うまみ調味料が使われるメニューの種類は何種類でしょう?
答え 451種類

すごいですね。調理系メニューの6割以上に使われています。

この凄さを実感するためにもう一つの質問です。
和食の代表的調味料である濃口醤油と味噌、穀物酢が使われたメニューの種類数は?
答え 濃口醤油674種類 穀物酢346種類 味噌281種類

うまみ調味料は、酢や味噌よりたくさんの種類のメニューに使われています。

最後の質問。
うまみ調味料が一番使われているメニューは何ですか?
この質問、プロでも正解は難しい。意外な答えです。でも内緒です。

「どうして、意地悪!」
「お便りください!お便りくださった方にはそっとお教えいたします」

料理人界で、うまみ調味料を「劇薬」と称する向きがあることをご存知ですか?物騒な表現ですが、決して悪い意味の表現ではありません。和風だしをとったり野菜や魚の煮物を作るとき、料理人は昆布や鰹節をふんだんに使います。そして最後にうまみ調味料を少し使うと、見事に味がまとまるのです。しかし玄人を自負する手前、なかなか云えないらしい。だから劇薬なのです。値段の高い昆布や鰹節をふんだんに使うのも良いですが、うまみ調味料を隠し味として忍ばせる技は十分に文化です。
うまみ調味料を黒だ、白だと目くじら立てて騒ぐ必要はありません。私たち日本人は、西洋人のようにものごとにはっきり白黒つける以外の知恵を持っています。白と黒の間に横たわる色の深さを知る文化です。墨絵は白黒対極の狭間のグラデーションの芸術です。四十八茶の百鼠(微妙で深い色合いと味わいを楽しむ世界)の心で調味料を使いこなすことが、うまみ調味料の上手な使い方です。
ここでメーカーの方々にお願い事があります。うまみ調味料をたくさん使ってもらうより「隠し味の知恵」を家庭に伝えることが、うまみ調味料が日本の食文化として根づく早道なのではないでしょうか?

追伸 食の達人養成講座の3回目で「残りご飯」が食卓で活躍しているお話を、私どものスタッフがしました。その際「残りご飯」という表現は、あまり良くないというご指摘がありました。そこで百鼠の心で考えてみました。2回目のこのコーナーで「合理化とは、食材の特質を知り、調理の負担を少なくすること」というお話をしたことを覚えていらっしゃいますか。炊いたご飯を、後から美味しく食べる工夫は立派な合理化です。合理化には簡便化とは違って、心がこもっています。それが残りご飯の活躍に繋がっているのです。そこで...

「炊き置きご飯はどうでしょう」
「うーん、ちょっと古臭いね」
「では現代風に、作り置きご飯はいかがですか」

食に関するコラム 目からウロコが落ちる話の一覧に戻る

ページトップへ戻る