目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第2回 凡なる非凡

今回は食の達人養成講座の2回目にお話したことを話題にします。
最近はメニューレシピブームです。任天堂のお料理ナビが大流行しています。お料理ナビを使って料理する若者が増えているそうです。カリスマ主婦のお料理ブログが大人気です。数百万のアクセスを誇るお料理ウエッブサイトも登場しています。最大手ハンバーガーチェーンは次々と新しいメニュー開発をして売上増を実現しています。最近のファストフードは朝食メニューがトレンドらしいです。野菜を使ったスイーツ(ようするに菓子)が女性人気を集めていると報道されています。未知のスイーツの味に欲望がそそられるのでしょうか?かくいう私達も、食の達人養成講座の中で「赤いおでん」というミスマッチなメニューレシピを提案し、ちょっとした話題を振りまきました。
私が住処の近くにある馴染みのレストランから客足を増やすに相談がありました。『新しいお客さんを呼びこむために、新しい料理をどれくらい作れば良いのでしょうか?』...と。
でも...、ちょっとまってください。

私達は少し、目先の新しさばかりに目を奪われすぎてはいないでしょうか?そのために大切なことを忘れていませんか?料理とは一体、何でしょうか?

誤解を恐れず言わしてもらいます。
「料理とは食材の特質を活かした生きる営みの技です」。
「理を料る」がそのことです。
ということは何も珍しい料理でなくて良く、馴染み料理で十分なのです。最近は、奇を衒う料理が多すぎるように感じます。ありきたりの味噌汁料理でも、季節の素材の特質を上手に活かした味噌汁を作れば、十分に料理上手になれます。等身大の食卓の豊かさです。

ここで問題です。私達の食卓で、以下の野菜が一番良く使われる料理をあててください。
大根、人参、なす、長ネギ、たまねぎ、じゃがいも、サトイモ、こまつ菜、絹さやえんどう

答え 全て味噌汁

この答え、意外だと思う方が多いでしょう。野菜といえばすぐに頭に浮かぶのがサラダや野菜の煮物です。とくにレストランのシェフや割烹の料理人たちはそんなこだわり野菜料理をアッピールしています。しかし、私たちの普段の食卓では、野菜をとる一番の料理は味噌汁なのです。味噌汁には家族に野菜をとってもらおうという主婦(夫?)の愛情がこもっています。その工夫は昔も今も変わりません。味噌汁が「お袋の味」といわれる由縁がこんなところにあるのです。普段使いのメニューにこそ、人の心が反映なされるものです。
大分以前のことですが、舞台俳優の吉田日出子さんと懇談する機会を得ました。その懇談会で吉田さんがいった言葉が印象的でした。
「役者というものはあまり奇を衒ってはいけません。飛んだり跳ねたりをしすぎると観客は白けてしまいます。だからといって平凡な演技もいけません。観客が眠ってしまいます。大切なことは平凡な演技の中に、観客をあっと思わせる伎を忍ばせることです。すると観客は感動し、共感します」
今の料理が一番に忘れていることです。凡なる料理に忍ばせる非凡な心と技です。
最近、私は干し野菜に挑戦しています。台所や冷蔵庫で眠っている大根や人参、ジャガイモを千切りにしたり薄切りにして、庭で1、2時間ほど日影干しします。この少し熟成した野菜を味噌汁の実にします。因みに私は、野菜の皮はむきません。野菜をしばらく少し水に浸し、たわしや手で汚れを落として、そのまま料理に使います。一夜干しならず一刻干し野菜を味噌汁の実にすると、味噌汁の味の深みがぐっと増します。無駄がなく、経済的で、手軽で、しかも健康な味噌汁料理のちょっとした心遣いです。
合理化とは、食材の特質を知り、調理の負担を少なくすることです。食材の道理をわきまえず、ただ調理の負担を無くすことばかりに熱心なのが簡便化です。合理化のさらに上があります。合理化を土台に、美味しさや豊かさを増す調理です。効果化と呼んでいます。先ほどの乾燥野菜を使った料理です。
効果的な調理をするためには優秀なプロデューサーと優秀なワーカーが必要です。今はそれを消費者だけの努力で行っています。多くの食品メーカーや生産者は簡便化にばかり関心があります。簡便化には心がありません。だから食の文化が廃れるのです。そして全て価格に走るのです。もし消費者が優秀なプロデューサーになり、食品メーカーや生産者の方々が優秀なワーカーになり、お互いに協働することが出来たら素晴らしいことです。
そんな環境を創るのが私達の活動の目的です。

食に関するコラム 目からウロコが落ちる話の一覧に戻る

ページトップへ戻る