目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第82回 日本の食文化再考と創生プロジェクトの紹介3

日本の食文化をゆがめているパリの寿司店、ラーメン店

ここ数年、パリでは回転寿司ブームである。ラーメン店もブームである。これら外食店のほとんどが中国人経営の店だということをご存じか?日本人経営の店は皆無に等しい。

問題は、これらの店の日本料理は粗悪なニセ日本料理だという点である。そんな店にパリっ子は行列をつくる。パリっ子は案外に味音痴なのだろうか?

確かにパリの三ツ星レストランでは多少のフュージョンはあるが日本人シェフによる本格的日本料理や日本の素材が使われている。しかし彼らの技は個人の技である。

一方、市井の日本料理店はニセ日本料理である。市井の店の技はビジネスの技である。個人の技とビジネスの技には大きなギャップがある。しかも先ほど述べたように、日本やフランスの有名料理人の技や技術が、庶民の食卓に何のインパクトも与えていない。

これがフランスにおける日本食ブームの実態である。日本の食卓も同様である。こうした現状もわからず「日本料理を世界遺産にしよう」「日本ブランドを世界に広めよう」としている。

いささか本末転倒ではないか?


デイリーライフとして世界に誇れる日本フードがない

シアトルの店舗観察で日本文化に関する面白い事実に気付いた。シアトルもパリと同様にエスニックブームである。常温コーナー、チルドコーナー、フローズンコーナーの3つの温度帯の売場には必ずエスニックフードが並んでいる。イタリアンやチャイニーズ、メキシカンは昔からあるエスニックである。最近はインディアン、ベトナム、タイ、イスラムなどアジアの国々のエスニックがブームである。

ところがそこにジャパニーズフードは殆どない。もちろん醤油や豆腐はある。これらは素材である。日本料理はない。デリカコーナーにロール巻き寿司はある。しかしどこかチャイニーズっぽい。庶民の台所である食品スーパーに、世界に誇るジャパニーズ・フードや日本料理はない。

パリの高級百貨店のギャラリー・ラファイエットの食品売場に「中日越デリカコーナー」と銘打った惣菜売場があった。よく見ると日本のデリカは一つもない。チャイニーズ料理とベトナム料理ばかりが並んでいる。店員に和風デリカはどこにあるのかを訪ねた.きょとんとした表情で「そんなものはない」と答えた。店の奥に日本語で「寿司」と書かれた看板があった。アジア人がやっている寿司コーナーがあった。空しさを感じた。

日本料理は世界のグルメ料理として、海外の日本料理店や一部の高級惣菜店で出されている。しかし庶民の台所である食品スーパーには日本料理はない。市井の外食店は中国人経営のニセモノだらけ。もう1つの事実がある。

海外の食品スーパーに、世界に誇る日本の食品メーカーがいない。


世界共通の新潮流SNACKING

「寿司やてんぷらが日本を代表する料理」という考えはグルメ時代の残像である。世界の食の関心はグルメ料理から普段使いの料理に移っているのではないか。普段使いの食卓で日本が世界に誇る食品や料理は何かを考え、開発する必要がある。

1つのキーワードがフュージョンである。
もう一つのキーワードがSNACKINGである。

SNACKINGは私がこの夏に実施したパリの小売店観察調査で見つけた次世代の食カテゴリーのコンセプトである。昨年の10月に開催された食の国際見本市SIAL2012でも、世界の新潮流としてSNACKINGという言葉が使われていた。

SNACKINGは「ナチュラルな軽食」という意味である。
「スローフード&ファストミール」とも呼んでいる。

食が生活の一部として組み込まれることで、かえって日常的食の重要性が増している。成長期のライフスタイルから成熟(衰退)期のライフスタイルに移行している。新しいライフスタイルの提案が求められている。新しいライフスタイルのベストチョイスがSNACKINGではないか。

「日課としての食」から新しい日本の食文化が生まれるのではないか?それが日本の食の再考と創生に繋がるのではないか?

世界に誇れる普段使いの日本食の創造が、新しい市場を誕生させ、日本の食市場を活性化させる。世界に誇れる日本食の創造を食品メーカーが担えれば素晴らしい。

さらに日本の米と食品メーカーがタイアップした活動を行えば日本の食の創生に大いに役立つ。川上の産地と川下の食品工業の連携で日本の食文化を創生する。


日本の食再生のキーワードは和と洋のフュージョン

21世紀の都市市民の食スタイルとアジアの食文化が融合することで、新しい日本の食文化が誕生するだろう。下図は20年前に考案した「時代の振り子の要理論」を用いて予測した21世紀初頭の日本文化誕生の予測である。

(注)時代の振り子の要
振り子は振れる。振れる振り子には要がある。要は左右に振れ対立する振り子(和と洋)を調和させ、統合する。要は振り子より高い次元に存在する。要は新しい文化誕生の場である。

日本の文化は和と洋が統合・融合(フュージョン)で誕生してきた歴史力学がある。文化の主役が貴族→武士→商人(企業、資本家)と、上流社会から次第に下の社会に下る歴史法則がある。文化誕生が400年から350年の周期で起きる歴史の波動法則がある。

この法則に従うと2010年から2020年当たりに新しい日本文化が誕生する。今度の主役は町衆(市民)である。インターネット社会の意味もここら辺りにあると思われる。

21世紀、市民のライフスタイルとアジア文化がフュージョンする処で新しい日本文化が誕生する。

top_column_82_1.gif文化誕生には「社交の場」が必要である。
21世紀の社交場は「家庭」ではないか。

20世紀まで登りつめたモダン社会は終わった。欧米中心の大きな物語が終わり、世界中から多くの小さな物語が語られるポストモダン社会~モダン・グローバル社会の幕開けである。

かつてアメリカのフェイス・ポップコーン女史が提唱した「COCOONING」(繭化現象)はその予兆だった。COCOONINGはアメリカの消費市場に多大な影響を与えた。日本では「COCOONING」を「内籠り現象」と解釈するが「繭化」は単に内に閉じこもるだけでなく、繭の中でさなぎが蝶に変態する意味が含まれている。

この変態をトランスフォーメーション(変換)と呼び、次世代市場を束ねる「顧客価値接点」として重視する識者もいる。
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市民のライフスタイルが変態(トランスフォーメーション)する場(繭)が「家庭」である。家庭のライフスタイルは何か?

「絆」ではないか?

絆の中で、とりわけ弱い絆(Weak Tie)ではないか?

家庭で行われる社交の食スタイルは何か?

「演技する食」ではないか?

図は日本の食の再考と創生プロジェクトの第1ステップ調査で食MAP分析を行った結果、デザインされた食卓スタイルと開発コンセプトである。

ここに「演技する食」と2つの食のキーワードを置いてみた。
top_column_82_3.gif(追伸)
現在、日本の食文化再考と創生のための活動プランをつくっている。そのポイントは食品メーカーが日本の食創生のリーダーシップを握ることである。もしこのことが実現すれば日本の食品市場は元気がでるだろう。

具体的になればご紹介する機会もあるだろう。

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