目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第44回 掃き溜めに鶴がいる

数年前から「ロングテール効果」という言葉に注目が集まっています。これまで、多くの企業は恐竜のビッグヘッドの部分(大市場)に注目したマーケティング活動を行ってきました。しかしこれからのIT社会ではロングテール(小さな市場)の部分にこそ成長の可能性があるというのが注目の理由です。
私に言わせると、ロングテール効果は別にIT社会の専売特許ではありません。昔からあることです。恐竜なんて恐ろしい生物の喩えではなく、可愛いらしい生き物に喩えられます。

~掃き溜めに鶴がいる~

古いお話で恐縮ですが。掃き溜めに鶴がいることを実感したことがあります。8年前、藤六という北海道の佃煮メーカーが、北海道の生協であるコープさっぽろで昆布巻き開発を成功させました。
「昆布巻きは売れない商品」というのが食品スーパーの常識です。POSデータによるABC分析(売れ筋・死に筋分析)によると、Bランクの下かCランクに位置します。年々、売れ行きが落ちています。売れない商品に販売担当者の力は入りません。ますます売れなくなります。まさに恐竜の尻尾です。いや掃き溜めです。
藤六は、自社の昆布巻きをなんとかヒット商品にしたいと考えました(この熱意が大切です)。いろいろな売場を調べました。いろいろな事がわかりました(この科学が大切です)。昆布巻きは食品スーパーでは、通常和日配コーナーで売られています。和日配コーナーの佃煮というカテゴリーに属する食品です。消費者の目には、昆布巻きは佃煮として映るわけです。以前お話したフレーミング効果(固定観念)が働いています。
冷蔵庫で切らすことはないが、メインディッシュにならないのが佃煮の悲しい定めです。当然に価格は高くできません。和日配コーナーでは3本ワンパックで売られることが多いことが調査でわかりました。「お父さんは食べるが子供は食べない。だから3本で十分」という売手の判断が入っています。
売れている店があることがわかりました。売れている店と売れていない店では、昆布巻きの売場が違っていました。惣菜コーナーに置かれている店では売れ筋になっていました。ここまでの話で「ハハーン」と思われた方は食の達人です。

惣菜コーナーはおかずコーナーです。おかずコーナーは最近ではデリカコーナーと呼ばれています。消費者の目には、デリカコーナーの商品はごちそうに映ります。ごちそうは食卓のヒカリ物です。少々高くても許せます。家族それぞれ最低1個は必要です。惣菜コーナーの昆布巻きは5本ワンパックが多いことが調査でわかりました。
藤六はコープさっぽろに、売場を佃煮コーナーから惣菜コーナーに変えることを提案しました。さらに「浅炊き」という新商品を開発しました。佃煮は買い置き型食品なので冷蔵庫で日保ちしなければなりません。日保ちさせるために味付けを濃くします。惣菜はその日のおかずです。その日に食べるおかずの味付けを濃くする必要ありません。「浅炊き」は美味しさの表現です。健康志向にもマッチしています。売場を変え商品名を変えることは、市場を変えることで商品の価値を変えることと同じです。りっぱな商品開発です。

藤六はもう一つ画期的な挑戦をしました。通常、売場のバイヤー(商品を仕入れる人)は、仕入れ計画を昨年の販売実績を見ながら行います。そのため「昨年より10%アップ」といった計画がせいぜいです。しかし藤六はコープさっぽろに昨年比3倍の販売計画を提案しました。ほんとうは5倍にしたかったらしいのですが、バイヤーがビビってしまったのであきらめました。もし3倍計画を実現すると、次の年の売上目標が怖いのがバイヤーです。昆布巻きがデリカコーナーで売れている店の商圏規模や立地環境、店舗規模を、コープさっぽろ店と比較すると5倍は売れるという確証があったのですが...。
藤六は見事に3倍計画をクリアしました。コープさっぽろの売場は感動しました。私はこの感動の報告を聞く現場にいたのです。その際、私の横にいた大手食品スーパーの元社長さんが私の耳元で囁きました。
「米国の進んだ食品スーパーではABC分析ではなく、ABCDE分析をします。AランクやBランクの商品は市場シェアをとるため、薄利多売の商品が多いのです。案外に利益がでません。どこの売場にも置いてある。Cランクの商品はバイヤーがあまり関心を持たない。そんな商品の中に儲けの多い商品があるのです。Cランクの中から光モノを探すのがCDE分析です」。
私は瞬間、心の中で叫びました!

「掃き溜めに鶴がいる」

日本の売場はアメリカでABC分析が重要と宣伝されれば、ただそれを機械的に受け入れるだけです。なんの工夫や挑戦もありません。藤六の昆布巻き挑戦は、掃き溜めに鶴がいることを証明しました。ロングテール効果は別にIT社会だけの産物ではありません。

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