目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第42回 私は反対のものによって物事を理解する

難事件を解決するために、名探偵は目先の事実に惑わされず、事実の背後に隠されている真実を探り出さなければなりません。最近の商品開発や販売に携わるマーケター諸君は、めまぐるしく変わる事実ばかりに眼を奪われ、事実の背後に隠れている真実を見つめる力が弱まっているように思えます。マーケティング界に名探偵が少なくなっています。

情報デザイナーとして有名なリチャード・S.ワーマンは「情報選択の時代」(日本実業出版会 松岡正剛訳)の中でテーブルと食器の絵を見せ、次のように言っています。
「私は反対のものによって物事を理解する」 これって一体何のことでしょう?図をよく見てください。

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私達がすぐに見ようとするのが食器や花瓶です。しかし図の食器や花瓶は白抜きになっています。背景であるテーブルを逆に黒く浮き上がらせています。食器や花瓶の価値は食器や花瓶にあるのではなく、丸くて大きなテーブルにあることを理解してもらうためのデザイン画です。
丸い大きなテーブルは、通常の食卓ではないことを表しています。7枚の皿は大勢の人々が集う食卓を意味しています。大きなワイングラスとテーブルの真中に置かれた花瓶が、大人達が集まるハレの食卓を連想させます。恐らくお客を招待した食卓か、レストランの食卓なのでしょう。パーティを開いているのかもしれません。そんな背景である食卓にある食器や花瓶という意味です。これが、図という事実の背後に隠されている真実なのです。
同じ食器や花瓶でも家族団欒の食卓にある場合と、大人達のパーティの食卓にある場合とでは、当然に価値が異なります。テーブルという背景の意味を理解して、はじめて食器や花瓶の価値が理解できるのです。

次の図をみてください。左側の図は人が建物を見ています。人は立派な建物だと感心しています。これが建物の見える価値です。右の図では人は建物から周りを見ています。周りは建物の背景です。もし背景である周りが低い住宅ばかりだったらどうでしょう。周りの住宅地の住人にとって、この高い建物は景観と日照権を侵している厄介な建物ということになります。これが建物の隠れた価値です。このように見方を変えると建物の価値は一変します。

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マーケターは商品開発に必死になります。しかし同じ商品でも使われる生活場面が異なり使われる消費者が異なると、全く違った価値を持つことに案外に気づきません。商品の価値に呪縛されず、生活背景と商品の間に横たわる意味文脈を見極めることが、マーケティング界の名探偵になる極意です。

(追伸)
最近、「新しい市場を発見するための必読本 ~見間違っていたシングルス市場~」(定価1000円)を弊社から出版しました。その「はじめに」に以下のように書きました。
「品質や技術に価値があるから売れるのではありません。消費者の生活事情の中で価値が認められるから売れるのです」
これからの商品開発の秘訣です。

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