目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第30回 未来を見る事ができる「時代の振り子の要」

四角い頭を三角にしてください。

今回は、複雑な事柄を考えたり、見えない未来を想像するために便利な「思考のカタ」を伝授します。因みに「思考のカタ」とは考えたり、想像したりするための「思考の枠ぐみ」です。

形式的なことに終始するあまり、肝心なことが伴わないことを「仏をつくって魂入れず」と言います。これを言われた当人は良い気がしません。しかし私はあえて奨励します。ただ誤解があっては困るので、言葉の順序を入れ替えて推奨します。

「魂を入れる前に仏をつくれ」

複雑な事柄や未知の事柄に挑戦する際、最初から成功することは稀です。長い時間と多くの苦労が伴います。それを思うとついつい気後れがします。「魂を入れる前に仏をつくれ」は、こうした気後れを回避するために考えた私流の格言です。複雑な事柄や未知の事柄に挑戦するためには、まず挑戦するための思考のカタをつくることが肝要です。

「想像力」とは、目の前に存在しない事柄や、一見してありそうにない事柄の可能性を考える力です。マーケティング界の名探偵は想像力が逞しくなければなりません。
「思考のカタ」を用いると想像力が豊かになり、未来が想像しやすくなります。未来を想像するために私がよく使う「思考のカタ」に「図形」があります。図形という思考のカタを用いて発想したり想像したりすると、見えない未来が見えてきます。嘘かどうかはコラムを読んでから判断してください。

自分の思いや考えを、言葉や記号にして「図形」の上に配置すると、言葉や記号の意味を2つの次元で理解することができます。

●図形に沿って置かれた言葉や記号が直接に語りかける意味(地図の図の部分:見える意味)

●言葉や記号が置かれた図形の位置関係から読み取れる隠れた意味(地図の地の部分:隠れた意味)

文字盤の時計と数字だけのデジタル時計では、時刻を見たときの感じが違うことを体験した人は多いでしょう。デジタル数字の時計は表示された数字の意味(図)しか見えません。文字盤時計は、時針が指し示した時刻(図)と文字盤(地)を重ねて見ることができます。文字盤の時計のほうが想像力を刺激されます。
図形の上に置かれた言葉は、言葉が表現する直接的な意味と、図形がつくる背景の意味の両方を2重写しにして理解させてくれます。言わば「思考の地図」です。
ある哲学者がちょっと難しいことを言いました。

『哲学とは、語られるものを叙述することで語られぬものを意味することである』

私がよく用いる図形が三角形です。四角形はあまり使いません。四角形は4つの点がお互い対極に配置されており、どうしても思考が対立的になります。対立的な思考は私の好みではありません。五角形や六角形は時々使いますが、思考が複雑になる欠点があります。円形は捉えどころがなく思考のカタとしては不向きです。一番は三角形です。
「三角形は、私たちに何を発想させてくれるのでしょう?」

私達はともすれば、物事を対立的に考えるくせがあります。AかBかどちらか1つを選ぶといったように考えがちです。肝心なことは、対立的に考えながらもその対立を調和させる第3の存在を想像することです。三角形でいえばCの存在です。三角形という図形は、2つの対立の存在と、2つの対立を調和させるCという第3の存在を想像させてくれる思考のカタです。

『四角い頭を三角にしてください』

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サラリーマンの未来を予測する

未来を想像する思考のカタで、未来を予測する三角形を「時代の振り子の要」と呼んでいます。「時代の振り子の要」を用いて想像すると、見えない未来が見えてきます。
嘘のような本当の話しを信じてもらうために「時代の振り子の要」理論を使って悩めるサラリーマンの未来を想像してみましょう。
サラリーマンの多くは、家庭をとるか仕事をとるかで悩んでいます。サラリーマンの悩みはどうすれば解決できるのでしょうか?
下の図はサラリーマンの悩みを時計の振り子に喩えています。サラリーマンの心の振り子は職場と家庭の間で揺れています。そんな揺れるサラリーマンの心の振り子を、快適な高速通勤列車で結んでみても、サラリーマンの悩みは一向に解決しません。
サラリーマンの悩みが小さい間は、振り子は小さく振れています。サラリーマンはなんとか悩みを抑えられます。しかし悩みが大きくなると振り子の振れが大きくなります。

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ところで時計の振り子には要(かなめ)があります。時計の振り子は要のおかげで揺れを保っています。もし振り子の要の位置がそのままであれば、サラリーマンの心の振り子は大きく振れ、グルグルと回転し、終いには目が回り、何かの拍子に心の糸がプツンと切れ、サラリーマンはどっかに飛んでいってしまいます。家庭をとるか仕事をとるかの2択問題ではサラリーマンの悩み問題は解決できません。

さてここからが本題です。図形を使ってサラリーマンの悩みを解決する未来を想像してみましょう。マーケティング界の名探偵登場です。

名探偵は次のように推理しました。
『時計の揺れる振り子はサラリーマンの対立する心である。同時に三角形の2点である。時計には振り子の要がある。振り子の要は対立する2点を調和させる3点目である』
揺れる振り子は、実は三角形なのです。名探偵は次のように推理しました。
『サラリーマンの悩みを解決する鍵は振り子の要に隠されている』
このように推理すると、時代の振り子の要はサラリーマンの未来について色々と語り始めます。というより要に語らせるように推理するのです。振り子の要は次の様に語り始めました。
「仕事をとるか家庭をとるかの2択問題ではサラリーマンの悩みは解決しない。サラリーマンの悩み解決の鍵は、仕事と家庭の良い関係をつくることにある。仕事と家庭の良い関係をつくる鍵は、振り子の要に隠されている」

時代の振り子の図をじっと見ます。勘の良い皆さんなら、振り子の位置より要の位置が高いことに気づくでしょう。重力が働く地球上では振り子より要が高い位置にあるのは当たり前です。この当たり前の中にこそサラリーマンの未来の鍵が隠されているのです。振り子の要は再び語り始めました。
「サラリーマンの悩みを解決する鍵は、家庭や職場とは違った要の次元に存在する」
推理はいよいよ佳境に入ります。名探偵は想像をめぐらします。
家庭と職場は、サラリーマンにとっての大切な2つの生活の場です。この2つの生活の場が対立し振り子のように揺れているわけです。名探偵は考えました。
『対立する2つの生活の場の良い関係をつくる第3の生活の場があるはずだ。それを探そう』
第3の生活の場の想像のポイントは2つです。

第1 家庭と職場と第3の場でサラリーマンの生活全体が説明できなくてはならない
第2 第3の生活の場は家庭や職場より次元が高くなければならない

『社交場ではないか!』
サラリーマンには3つの生活の場があります。家庭、職場、そして社交場です。社交場を「街」や「盛り場」と言いかえても良いです。社交場は家庭や職場とは違った次元の生活の場です。サラリーマンは3つの生活の場で3つの顔を持っています。

家庭では夫や父親の顔
職場では上司や部下の顔
社交場や盛り場では自由な個人の顔

かつて日本の職場には半ドンという制度がありました。仕事が午前中で終わる制度です。午前中に仕事を終えたサラリーマンは、午後から街に出かけ、映画を見たりスポーツセンターで汗を流したり喫茶店で友人とお喋りを楽しみました。
かつてのサラリーマンは、家庭でもない職場でもない都心のスポーツ施設やレジャー施設で、あるいは盛り場で様々な午後の健全なレクリエーションを楽しみました。そのお蔭で喫茶店や映画館やスポーツクラブなど、たくさんの都市娯楽や都市文化が生れました。街という社交場はサラリーマンにとっての心のオアシスだったのです。
そのうち完全週休2日制度が職場に普及し、サラリーマンの生活の場は職場と家庭の2つだけになりました。休日の2日間を家族サービスの買い物に付き合わされたり、自宅でごろごろと過ごすサラリーマンが多くなりました。週休2日制のおかげでサラリーマンは第3の生活の場を失いました。サラリーマンの生活はかえって貧しくなりました。

ロンドンでは、週の水曜日を半ドンにしている会社があります。ロンドンのサラリーマンは、午後を都心でスポーツをしたり、夕刻から観劇を楽しんだりしています。一旦帰宅してからパーティ用のドレスに着替え、再び都心に戻り、アフタヌーンティや夜のパーティを楽しむサラリーマンもいます。ロンドンのサラリーマンは、様々な都市リゾートを楽しんでいます。そこから新しい都市文化やライフスタイルが生まれます。仕事帰りに一杯飲み屋で酒に酔い、夜遅く疲れて帰宅する日本のサラリーマンとは大違いです。

次回は時代の振り子の要を使って、食市場の未来をのぞいてみます。お楽しみに!

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