目からウロコが落ちる話

目からウロコが落ちる話

弊社前会長、齋藤隆による食に纏わることを綴ったコラムです。

第20回 主婦のメニュー・プロデュース力はどれくらい?

食MAPには約720種類の主食とおかずがあります。ここで質問です。
主婦が1年間に出したメニュー(主食とおかず)の種類数はいくつでしょう?
~以下、主婦のメニュー・プロデュース力と呼びます

答え 平均310種類(2006年)

メニュー・プロデュース力が最高のモニターさんは、1年間に540種類の料理を食卓に登場させています。最低のモニターさんは50種類です。メニュー・プロデュース力の最高と最低は、10倍以上の開きがあります。メニューの種類が多ければ「豊かな食卓」とはいえませんが、考えさせられる結果です。
もう一つ、メニュー・プロデュース力の最高のモニターさんでも720種のメニューの75%程度という結果にも考えさせられます。最近はメニューレシピに関する情報が飛び交い、大いに関心がもたれていますが、まだまだ食卓にのぼる可能性のあるメニューの種類は沢山あるといえます。
それにしても400種類以上のメニューをプロデュースするモニターさんは食の達人といって良いですね。さてここで問題です。
1年間(2006年)で、全員のモニターさんの食卓に登場したメニューをお答え下さい。

答え 白飯と味噌汁 ~たったの2種類です~

「え!それだけ?」と思われる方が多いでしょう。そうなのです。1年間を通し、全ての家庭で1回でも食卓に登場したメニューは、白飯と味噌汁だけです。では100%には届かないまでも、ほとんどの家庭に登場したメニューのベスト7位が分かりますか?

答え
1位 焼き餃子(99.6%)
2位 ミックス野菜サラダ(98.3%)
3位 鮮魚の塩焼き(97.8%)
4位 チャーハン(97.4%)
5位 温かい汁うどん(97.0%)
6位 刺身(97.0%)
7位 冷奴(96.5%)

1位が焼き餃子には驚きました。もはや焼き餃子は立派なニッポンの食卓料理です(今年始めの中国冷凍餃子事件以来、手作り餃子が伸びています)。4位のチャーハンも同様です。焼き魚と刺身が拮抗しています。うどんと冷奴は日本人大好きのお手軽料理です。

質問です。ニッポンの伝統料理である雑煮が、食卓に登場した家庭の割合はいくらですか?

答え 73%

筆者の推計では正月にお節料理を食べている家庭は80%です。これには及びませんが雑煮という食文化はりっぱに健在です。
ちょっと驚きの食卓メニューがあります。お店で買ってきた弁当です。1年間に市販弁当を一度でも食卓に出した家庭の割合は76%です。市販弁当は庶民の家庭にとって、なくてはならない料理なのです。
この事実を知って「時代は変わった」とお感じになる方もいるでしょう。因みに市販弁当を利用している家庭は、1年間に平均11回、食卓に市販弁当を出しています。ほぼ1ヶ月に1回の割合です。因みに市販弁当がピークの山をつくる日があります、年によって変わりますが、次のような日にピークの山をつくります。

建国記念日 2月11日
ひな祭り  3月3日
春分の日  3月21日
お盆    8月15日
秋分の日  9月23日
体育の日  10月10日
年末    12月29日~31日(但し昼食まで)

どの日も全国的に祝日です。祝日は家族揃って外出する機会が多いでしょう。外から帰って夕食の支度なんて真っ平ごめんです。年末は何かと忙しい。そんなときに便利なメニューが市販弁当なのです。
私はそんな市販弁当に名前をつけました。
「主婦の安息日メニュー」
そんな弁当が月に1回のペースで登場する。ならば主婦の安息日は月に1回ということになります。
主婦の安息日に市販弁当を食卓に出すという文化が育つならば、私は大賛成です。まず、お母さんが楽ができます。そして家族が喜びます。
「何故って?」
美味しい市販弁当を食卓に出すことは、料理の手を抜いているのではありません。美味しい外食の味が家庭に飛び込んでくるのです。我が家が「街のレストラン」に変身するのです。だからお父さんも子供たちも皆「わ~い!」と喜ぶのです。
手抜きは「家事機能・サービスの外部化」です。
我が家が街のレストランは「都市機能・サービスの内部化」です。
一見して、同じような事柄ですが、視点を変え、視線を変えると全く別な事柄に変身します。そんな楽しい市販弁当サービスが、もっと世の中に出て欲しいと思っています。

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市販弁当が出たついでに質問です。
質問 食卓に出された割合が高い惣菜のベスト7位を答えなさい。

答え
1位 天婦羅(86.2%)
2位 うなぎの蒲焼(77.5%)
3位 にぎり寿司(75.8%)
4位 海苔巻き寿司(74.9%)
5位 焼き豚(71.4%)
6位 焼き鳥(70.6%)
7位 中華まん(68.8%)

介護施設の料理指導をしている著名な栄養士の先生のお話をお伺いしました。先生曰く、末期の高齢者の方々に「今一番、食べたいものは何?」と聞くと、ほとんどの方が口を揃えて「食べたい」と答える料理が3つあるそうです。ご存知ですか?

答え 寿司、鰻、天婦羅

次に鍋料理についてみてみましょう。
食卓に一番よく登場する鍋料理のベスト5位を挙げてください。

答え
1位 おでん(プロデュース力94%)
2位 和風鍋(同91%)
3位 すき焼き(同72%)
4位 湯豆腐(同68%)
5位 キムチ鍋(同45%)

キムチ鍋がベスト5位に入っています。しゃぶしゃぶがベスト5から漏れました。しゃぶしゃぶはベスト6位(同41%)です。
続いて質問です。それぞれ鍋料理を出した家庭で、その鍋料理が1年に何回、食卓に登場しているでしょうか?

答え
おでん(9回)
和風鍋(8回)
すき焼き(4回)
湯豆腐(5回)
キムチ鍋(5回)

以上以外の鍋料理に、チーズ・フォンデューやオイルフォンデュー、ブイヤベースといった洋風鍋料理があります。柳川鍋のような伝統鍋料理があります。シチューだって考えようによっては立派な鍋料理です。最近、カレー鍋なる新メニューも登場しています。これからも色々な鍋料理が登場するでしょう。
ここで一つ耳寄り情報を提供します。鍋料理は江戸時代の末期に、庶民の間に普及した料理だといわれています。その多くが一人で鍋(どぜう鍋等)をつつくか、気の置けない仲の2人が、四畳半の小部屋で雪景色を見ながら鍋を囲み、さしつさされつ楽しむ、粋な料理だったのです。池波正太郎の時代小説、鬼平犯火帳や必殺仕事人によくそんなシーンが登場します。こうした鍋を「小立て鍋」といいます。大勢で鍋を囲んだのは、昭和に入ってから始まったというのが私の説です。「ひとり鍋」(私はこれを独楽鍋と呼んでいます)や、手軽に食べられる鍋料理が受け入れられる時代が来ています。

頑張って欲しい料理に刺身以外の魚料理があります。マグロ偏重の魚消費から脱出するためです。食品スーパーの鮮魚コーナーはマグロを中心にした刺身ネタと寿司ネタばかりです。こんな鮮魚売場に頼っていたのでは、日本の魚文化は崩壊してしまいます。食卓にプロデュースされる割合が数パーセントの魚メニューにはどんなメニューがあると思いますか?

牡蠣のクリーム煮(1.7%)
蛸と野菜の和風煮(2.6%)
魚のカレー風味煮(3.5%)
みがきにしんの煮物(3.9%)
魚の昆布〆(3.9)
あなご丼(4.0%)

刺身や寿司一辺倒から脱却するための魚料理は、野菜と相性の良い魚料理のようです。余談ですが、最近、私はある魚料理に凝っています。秋刀魚の「有馬山椒煮」です。秋刀魚は数少ない自給率100%の魚です。有馬温泉で有名な有馬山椒の佃煮で煮た「有馬山椒煮」は保存が利きます。一晩寝かし、冷めたほど美味しい煮魚です。酒の肴には最高の魚料理です。一度試してみてください。料理のコツは昆布だしに酒、醤油、味りん、そして大粒の上等な山椒(佃煮でも良い)を惜しまずふんだんに使うことです。

最後に、贅沢料理を見てみましょう。
焼き松茸、鯨のベーコン、キャビアが食卓に登場した家庭は何割だと思いますか?

答え
焼き松茸3.0%
鯨のベーコン1.7%
キャビア2.2%
さすが庶民の食卓から遠い存在です。

追伸
冒頭に述べました「100%モニターさんが食卓に登場させたメニューはご飯と味噌汁の2つ」について...。
この事実を「なるほど」と納得させる有力情報を入手しました。
(社)日本食品衛生協会発行の月刊誌「食と健康」の2008年2月号に「米・ごはん」(津田とみ 徳島文理大学教授)というコラムに次のような事柄が書かれていました。
~米には、わたしたちが必要とするアミノ酸のうち必須アミノ酸のリジン以外はちょうど良い割合で含まれていますが、リジンが足りず、つり合いに欠けています。
ところが大豆にはリジンが十二分な割合で含まれていますので補填できます。
一方、大豆はメチオニン(食品に不足がちな必須アミノ酸の一つ。体内での有機硫黄の主要源)が少なくてつり合いに欠けていますが、米にはメチオニンが余っていますのでそれを補填できます。
このように米と大豆はとても良い組み合わせなのです。ご飯と味噌汁、豆腐、納豆という日本人が慣れ親しんだ組み合わせが、アミノ酸比率からも理にかなっているのです~
「納得していただきましたか?」

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