食彩事記

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第3回 たけのこ

4月の旬の食材と言えば、なんと言っても「たけのこ」ですね。煮物にしても良し、炊き込みご飯の具にしても良し、そのまま焼いても良し。いろいろな食べ方が楽しめますね。
今回はその「たけのこ」にスポットをあててみました。

「筍」の由来

竹の地下茎の節から出る若芽のこと。10日も経てば竹になってしまうことから、旬と竹を合わせて「筍」という文字が作られたと言われています。
日本で一番古い文献の「古事記」にも記載されてることから、この時期には既に食されていたと思われています。

古事記

伊邪那美命が亡くなった後、伊邪那岐命は黄泉の国(死の国)まで伊邪那美命に会いに行きました。
伊邪那岐命に一緒に帰ることを懇願された伊邪那美命は、既に黄泉の国の食物を口にしてしまった為に、帰る事ができません。
伊邪那美命は帰りの許しを得るため黄泉神(よもつかみ)に会いに行く事にしました。そして、黄泉神と話している間、伊邪那岐命には決して部屋の中を見ないように約束させました。
しかし、なかなか戻ってこない伊邪那美命を心配した伊邪那岐命は、櫛を取り出すと歯を一本折り、それに火を灯して中を覗いてしまいました。
そこで見た伊邪那美命の体は腐敗し、蛆がたかり、声はしゃがれ、頭には大雷、胸には火雷、腹には黒雷、陰には拆雷、左手には若雷、右手には土雷、左足には鳴雷、右足には伏雷、合わせて八柱の雷神が彼女の体を蝕んでいました。
変わり果てたあまりの恐ろしい姿に、伊邪那岐命は思わず逃げ出しました。
「見ないで下さいとあれほど御願いしたのに。私に恥をかかせましたね。」
激怒した伊邪那美命は黄泉醜女(よもつしこめ)に後を追わせました。
黄泉醜女の足は速く、伊邪那岐命は今にも追いつかれそうになります。そこで最初は左の角髪にさした髪飾りを黄泉醜女に向かって投げると、そこから山葡萄が現われました。その山葡萄を黄泉醜女が食べている間に逃げましたが、すぐにまた追いつかれそうになります。今度は、右の角髪にさした飾りを投げると筍が現われました。またも黄泉醜女が筍を食べている間に、出口まで後少しの所まで逃げてきました。
その様子を見ていた伊邪那美命は業を煮やし、1500の黄泉軍を差向けました。
伊邪那岐命は剣を振るいながら逃げ、黄泉の国の入り口を「千引の岩」で塞いでしまいました。

筍の種類

竹は「属・種・亜種・変種・品種」などの植物学的な分類により300~600種類あると言われています。この中で筍として多く用いられる竹には、「孟宗竹」、「淡竹」、「真竹」があります。

孟宗竹
孟宗竹の名前は、中国二十四孝(元の時代に郭居敬が選んだ24人の孝子)の一人である呉の孟宗は、父を早く死別し、母に孝養をつくした人物で、ある年の冬、老いた病床の母が望む筍を、無いのは承知で竹林に行き雪中の筍を堀り当てたという故事から由来します。 マダケ属、九州・四国から東北南部の広範囲で採れますが、産地により品質が異なり、京都産のものが最も味が良いとされています。太く柔らかく、 香りも良いのが特徴です。 中国江南地方の原産で、薩摩藩の藩主島津吉貴公が琉球より2株を磯別邸に植培されたのが始まりで、その後全国に移植されたと言われています。

淡竹
マダケ属、九州、関西近辺に多い竹ですが耐寒性もあり、北は北海道南部まで栽培されています。皮の色は赤紫で先端が淡い緑色の筍で5月が旬です。すこし固めですが、アクが少なく、味も淡白です。地上に出てから収穫されます。中国原産で、国内で栽培が開始された時期は不明です。

真竹
マダケ属、関西、特に京都に多い種です。筍が出てくるのは一番遅く7月です。肉質はやや硬めであくが強く、苦味もありますが、味は良いです。皮は毛が無く、黒い斑点があり、民芸品や包装用に用いられます。中国原産とする説と、日本原産説があり、古事記に記されているのはこの筍だとされています。

栄養成分

筍には、アミノ酸が多く含まれます。特徴的なのは「チロシン」が大量に含まれていることです。これは、芳香族アミノ酸で、必須アミノ酸のフェニルアラニンから合成されるる大事な栄養素です。チロシンは水に溶け難く、ゆでた時に白い粉として現れます。えぐみのもとはホモゲンチジン酸や蓚酸(しゅうさん)です。他にもグルタミン酸や、アスパラギン酸などが含まれます。また、たんぱく質と、ビタミンB1、B2、ミネラル等が多く含まれています。

チロシン
神経伝達物質の原料となり、脳や神経の働きを活発にして、記憶力や集中力を高めるといわれています。この為、うつ病、痴ほう症、パーキンソン病の予防と回復や、その他細胞の老化抑制、高コレステロール改善に効果があると言われています。

繊維質
便秘の予防・改善だけでなく、大腸がんの予防やコレステロールの吸収を抑え、体外に排出してくれると言われています。

アスパラギンサン
グリーンアスパラ等に多く含まれる成分と同じで、疲労回復に効果があるといわれています。

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