
弊社会長、齋藤隆が日々思うことを綴ったコラムです。毎回食に関する様々なテーマで発信していきます。
第29回 シングルス市場の真実 〜パート4〜
新しい市場を創造する鍵はシングルスにあり
市場が消える
未曾有の経済大不況が訪れました。こうした時代だからこそ、勇気をもってピンチをチャンスに変えなければなりません。
「そんなことは分かっている。しかしその方策が分からない」と言われる方が大半でしょう。方策はあります。考え方を切り替えることです。ポイントは2つあります。
- 基本に立ち帰って考える
- これまで拠っていた前提条件(枠組)を180度ひっくり返して考える
ここで質問です。経済大不況とは何でしょう?
答え これまで存在していた市場が急速に消える事態
続いて 1 に関する質問です。市場とは一体何でしょう?
高名な経済学者などは「有効需要曲線と供給曲線が交差する点」などと小難しいことを言います。そんな難しい理論から、人々が納得する答えは出てきません。
答えは簡単です。「市場とは商品と顧客が出会う場」
ならば市場が消えるということは、商品と顧客が出会う場が消えることです。言い換えると「顧客接点喪失」です。大不況の引き金になっている車市場を例に取れば次ぎのようになります。
国内新車販売台数 2008年535万台 ピークの1991年の778万台から35%減 国内走行台数 7900万台 ⇒購買サイクルを10年とすると年間790万台の潜在需要がある ⇒きちんとした顧客接点と新技術車を提供すれば790万台の市場がある
現在の車メーカーのトップは顧客接点を見失った恐怖心のため、目先のコスト大削減を叫んでいるだけです。私からみれば、経営数字しか見ることのない大企業トップのおろかな姿です。
「シングルスの真実 パート1」でお話したことですが、これまでの食品市場は暗黙理に「夫婦と子供のいる世帯」をターゲットにしていました。夫婦と子供のいる世帯を前提に、これまで商品開発や売場作りを行ってきました。
食品と消費者の出会いの場が市場ということは、食品スーパーの売場が市場ということになります。現在の食品スーパーの売場は「夫婦と子供のいる世帯」を基準にして出来あがっています。この基準を、シングルス世帯という新しい基準で考え直す必要があります。食品メーカーの商品企画も同じです。もちろん全てをシングルス基準にするわけではありません。シングルス基準が付加価値になる顧客接点を発見し、現在の商品企画や売場作りに重ねるのです。例えば、後述するシングルスの評価の高い半製品の餃子やハンバーグを「リメイクできる惣菜」「ミール・ソリューション食品」として、惣菜コーナーなどで付加価値販売するのです。市場を絞りこむのではなく、市場を重ねるのです。
新しい市場は既に存在している
経済が右肩上がりの時代では、市場は予測することに意味がありました。成長する市場から大きな勇気を与えられたからです。市場が消える時代では、市場を予測しても意味がありません。不安と恐怖しか与えられません。経済とは生き物なのです。現在の大不況の嵐は消える市場を予測した小心な人間が起こした結果です。
コスト削減は目先の解決策でしかありません。コスト削減に終始する企業に明日はありません。新しい市場を発見し開拓する企業が、明日を力強く生きることが出来ます。判っているがなかなか実行困難な事柄です。困難な事柄を実行するためには、もう1度原点に返り、足元の市場を科学し、新たな枠組(フレーム)で市場を再構築する努力が必要です。
その重要な手がかりがシングルス食MAPに隠されています。
次ぎの一言が重要です。
「新しい市場は既に存在している。ただ隠れていて見えない」
このシリーズ「第24回テーマ:フレーミング効果を破る~新しい市場は既に存在している」で、モーニング・チーズという新しい市場を、食MAPから発見したお話をしました。チーズをモノ次元から見ると夕食市場しか見えません。チーズメーカーは夕食市場をターゲットにチーズの開発をしています。ところがTPOというコト次元から見ると朝食市場という新しい市場(モーニング・チーズ)が発見できたお話です。その中で私は次ぎの様に締めくくっています。
「新しい市場は、かつてコロンブスによって発見されたアメリカ新大陸に喩えられます。アメリカ新大陸は太古の昔から地球上に存在していました。にもかかわらずコロンブスによって発見されるまで、ヨーロッパ人には、その存在が知られていなかっただけなのです。
新しい市場は既に存在しているのです。存在していますが、隠れて見えないのです。新しい市場は我々に「早く発見してくれ!早く開拓してくれ!」と叫んでいます。新たな観察フレームをもち、新大陸を発見し、新大陸の市場開拓をするのがマーケターの役割です」
私達はこれまで「夫婦と子供のいる世帯」というフレームでしか食品市場を見ていなかったのです。このフレーム(思考の枠)が新しい市場の発見を妨げていることに気づく必要があります。新しい市場は既に存在し、発見されることを待っているのです。
新しい市場を発見するシングルス食MAP
シングルス食MAPという市場観察フレームから、一体どんな新しい市場が見えるかを少しご紹介しましょう。
図表はシングルス食MAPモニターさん(358名)が2008年11月1ヶ月間に食べた主要な夕食メニュー(大分類)が、どこの場所で食べられたかを表しています。「その他の飲食場所」とは、会社の食堂、コンビニ店や弁当屋でテイクアウトして自宅以外で食べた場合、友人や実家で食べた場合などを合算した結果です。
通常、内食市場と外食市場は別次元の市場のように考えられています。そのため内食市場と外食市場を一元的に見ることはありません。一元的に見たいと思っても、そんな方法はこれまで存在しませんでした。一元的に見ることを可能にしたのがシングルス食MAPです。
図はシングルスの夕食に関して、内食市場と外食市場を一元的に見た「市場の地図」です。「マーケティング・マップ」と呼んでいます。マーケティング・マップから、これまで見えなかった様々な事実が明らかになります。例えば次ぎの事実は、マーケティング・マップによって初めて明らかになったことです。
「外食市場に比べ内食市場が圧倒的に大きい市場が存在する」
ご飯(夕食市場に占める内食市場のシェア68.4%:単位はメニュ-数)
汁物・スープ(同66.0%)
シチュー・グラタン(同71.9%)
挽肉料理(同64.5%:ハンバーグや餃子、シュウマイが中心)
この市場に関係する食品メーカーや食品スーパーは、どれだけシングルスを意識した商品開発や売場作りをしているでしょうか?
「きっとお惣菜だろう」と思っているマーケターがいたら、その方はマーケター失格です。多くのシングルスが手作りをしています。ポイントは調理の仕方や食卓における料理の位置付け(ベネフィット)が、家族世帯とは大きく異なる点です。もしその事実を知り(新大陸発見)、新しい基準で商品企画をし、売場を作ると、新しい市場(顧客接点)が創造できるのです。
シングルスの内食率が少ない料理に焼肉があります。焼肉の内食率は19.4%でしかありません。シングルスの焼肉は外食市場で考えたほうが得策という拠所になります。牛肉料理や刺身料理も内食率が低くなっています。
内食市場にどんな新しい市場が隠れているか、もう少し具体的に見てみましょう。
図表は11月と12月の2ヶ月の間、夕食に登場したメニューについて、シングルス世帯と家族世帯を比較した結果です。これまで異なった市場として見られた2つの市場を、X軸とY軸という2次元で重ねた結果です。
シングルス世帯の食卓出現度に比べ家族世帯の食卓出現度が高いメニューが多いことが分かります。シングルス世帯の日本茶の食卓出現度は家族世帯の5分の1でしかありません。一見して当たり前の結果です。当たり前に見える結果にちょっとした工夫を加えて見ましょう。図表に「思考の補助線」を引きます。すると見えないものが見えてきます。
●図表に数字が入っています。先ほどのシングルスの内食率です。
シングルスの自宅内食率の高いメニューは次ぎのとおりです。
野菜の炒め物(77.4%)
豆腐の和風料理(73.5%)
コロッケ(72.4%)
洋風スープ(70.2%)
うどん(69.3%)
カレー(63.0%)
挽肉の中華料理(62.2%:大半が餃子とシュウマイ)
スパゲッティ(60.7%)
●図表に⇒が付いています。思考の補助線です。すると見えない2つの市場が見えてきます
縦⇒ シングルス市場を拡大するポテンシャルの高さを表す
横⇒ 家族市場を拡大するポテンシャルの高さを表す
シングルス世帯が自宅で食べることの多いメニューであるにも係わらず、家族世帯に比べ、何らかの理由で食卓に登場しないのが野菜炒めや、豆腐の和風料理、洋風スープ、餃子(挽肉の中華料理)です。何らかの理由とは、一言で言えば「食の壁」です。食の壁を破ることをミール・ソリューションといいます。もし食の壁が破られれば、シングルスの洋風スープ市場は、現在の7割アップです。餃子は6割アップです。
「ミール・ソリューションは惣菜を提供すれば良い」などという単純なのもではありません。現在の惣菜はコスト・パフォーマンスが悪すぎます。その証拠があります。 シングルス食MAPでは生鮮品から加工食品、惣菜にいたるまで、食材を使い切った際に「この商品をまた買いたい・もう買いたくない・どちらとも言えない」の質問を毎回しています。この結果によると出来合い餃子の再購入意向率はわずか4%しかありません。一方、半製品の餃子(自宅で調理する)や冷凍餃子の再購入意向率は20%です。出来合いハンバーグの再購入意向率15%に対して、半製品ハンバーグの再購入意向率は40%です。シングルスにとって半製品はミール・ソリューション食品に映るのではないでしょうか。因みに全食品の再購入意向率は20%です。
食品スーパーの売場に、ミール・ソリューションをコンセプトにした売場を作ることは、新しい顧客接点の市場を創造することと同じです。その売場を惣菜コーナーなどと連携させると、付加価値の高い売場が出来上がります。
図表によるとスパゲッティはシングルス世帯に比べ家族世帯の食卓登場頻度が低くなっています。ということは、シングルスが使用している付加価値を発見し、それに基づいた商品企画をすると、家族世帯で伸びる可能性が高いことを指しています。自分の食卓はわかっているが、他人の食卓は案外に未知の暗黒大陸なのです。
10年以上も昔、イトーヨーカ堂がスパゲッティの夕食市場を狙って冷凍スパゲッティを大手食品メーカーと共同開発しました。結果はうまくいきませんでした。シングルス食MAPから見る限り、ターゲットとコンセプトを間違ったようです。家族世帯のスパゲッティ市場は昼食と夕食にほぼ2分されます。シングルスは圧倒的に夕食市場です。因みにシングルスは出来合いのスパゲッティを利用していると思ったら大間違いです。出来合いは10%にも満たないです。冷凍スパゲッティもそこそこ使われています。しかし、ほとんどが乾燥スパゲッティを使った手作りです。
調理の仕方と夕食におけるスパゲッティの位置付け(ベネフィット)が、シングルス世帯と家族世帯では大きく異なります。一つ、手がかりを紹介しておきます。シングルス男性はソースにこだわっています。シングルス女性は野菜とそのための調味料にこだわっています。因みにシングルス男性の中に意外なスパゲッティソースを工夫している方がいます。ヒット商品の予感がします。これは企業秘密です。
現在の食品メーカーや売場はシングルスの事実を全く知らず、家族世帯のフレームのみでマーケティングを行っています。もしシングルスの事実を知り、それをシングルスの真実として商品化し、顧客接点を構築すると新しい市場が誕生します。
経済大不況の中で食品市場を創造する鍵はシングルスが握っています。
追伸
2月24日(火)にシングルス食MAPに関するセミナーを開催します。豊富なデータをもとに、これまで全くの未知だったシングルス市場の全貌が明らかになります。詳細は こちら をご覧下さい。